第三回 趣向の華 夜の部2010/08/16 22:42

日本橋劇場 午後4時半開演、1階11列1番

初めに青楓と勘十郎の挨拶。昼の部で疲れたという勘十郎がグダグダになると、すかさずフォローする青楓。最後の袴歌舞伎には大御所も出るので、昼の部とは一味違うという。

「真田小僧」

金坊 梅丸、父 國矢、母 梅之

落語を元にした芝居で青楓の構成・演出。長屋に住んでいる夫婦の息子が金坊。父が金坊に外に遊びに行けというと、手を出して「おわし」をくれという。ダメだと言うと、それならおっかさんに「おとっつぁんの留守に若い男がおっかさんを訪ねて来た話を、おとっつぁんに内緒にするから」と言って貰うと言う。気になって、話せという父からお金をせしめる金坊。話の要所要所で止めて追加を請求する。お客さんが、かなり笑っていた。途中で、なんとなく話の落ちは分かってくるのだが、それでも可笑しかった。國矢は途中で一度台詞があやしくなったが、梅丸は大量の台詞もちゃんと覚えていて立派。梅之は、はじめてじっくりと観たが、背が高い人なのだ。落ち着いた感じの長屋のおかみさんを好演していた。

最後におふざけで花道から出て来た按摩は勘十郎か?

常磐津「新曲竹生島」

浄瑠璃 青楓、三味線 勘十郎


青楓はうまいのだが、昼の部にうまさが十分にわかって要求水準が上がったためか、この曲を聴いているときは、やっぱり本職にはかなわないと思った。当たり前なのだが。

全演目通して観て、2人とも三味線も鼓もうまいが、勘十郎は三味線が特に得意で、青楓は声を出す系統が得意、という印象を受けた。

袴歌舞伎「傳書猿島軍(つたえがきさるしまだいり)」

袴歌舞伎で面白いのは、やっぱり女形。特に、素顔だとおじさんにしか見えない人の高い声の台詞は、カウンターテナーを聴いている時と同じような不思議な感じを受ける。今回、残月尼役の中村鴈乃助が、そんな感じだった。

孝太郎はチラシに名前が出ていたが体調不良で出ていなくて、代わりに高麗蔵が滝夜叉姫の役をやった。高麗蔵は、袴姿で女形の声でも、普段と同じ印象。滝夜叉姫は、いつもの豪華な傾城の格好ではないが、花道の七三での動きは同じだった。

猿之助の「金幣猿島郡」を観たというはっきりした記憶はないのだが、ある家に滞在していた身分の高い男を、その家の娘が好きで、男の妻か恋人に別れろと迫り、娘の父がやむなく娘を殺す、という話は、猿之助の芝居で観たことがある。今回、その男は源頼平役の種太郎。娘お清が、主役の梅枝。頼平の恋人、桔梗の前役が壱太郎。

桔梗の前は将門の孫で、源氏に追われ、旅の途中に恋人の頼平とはぐれて、如月尼(魁春)のところで下働きの小萩として働いている。そこに頼平が宿を乞いに来て再会。実は如月尼は頼平の乳母で、頼平と桔梗の前を添わせたいと考える。如月尼の娘のお清は、清水寺で見染めた男が忘れられず目を泣きつぶして盲目となった。お清は、自分が桔梗の前の身替りになると申し出る。如月尼が、村雨の宝剣を抜くと雷鳴がとどろき、剣の奇徳で、お清の目が見えるようになった。すると、見染めた男が頼平だと気づく。お清は桔梗の前につらく当たり、身替りになるのを拒む。如月尼は仕方なく娘を手に掛け、頼平と桔梗の前を逃がし、自害する。

最後の幕は大切所作事「鐘入相小袖散花(かねにいりあいこそでのちりばな)」(清水寺鐘供養の場)。最後はまたまた舞踊で嬉しい。 お清役の梅枝中心で娘道成寺風の踊り。それに種太郎と壱太郎が絡み、道成寺の曲で、種太郎を2人の女が取り合うという、私的には夢のような踊りだった。所化役で出た2人、種之助と廣松は一心會のときにうまいと思った。踊りがうまい5人で最後を締めたのだろう。

梅枝は、3年くらい前に獅子虎傳や、亀治郎といっしょの巡業で踊りを観た頃はうまいんだろうが輪郭がぼやけてるような感じだったが、今はうまいとしか言いようがない。


袴歌舞伎は昼夜ともに勘十郎が古い話をもとに再構成したもので、知っているモチーフが多いが、その中に勘十郎振付の舞踊がたっぷり入っているので楽しい。今まで、歌舞伎は話の筋がつまらないと思うことがよくあったが、今回観ているうちに、舞踊を見せるのが本当の目的で、話は舞踊と舞踊をつなぐ手段、という演目もありだと思うようになった。