松竹座 二月大歌舞伎 夜の部 「盟三五大切」2011/02/11 21:14

2011年2月11日 松竹座 午後5時開演 1階7列7番

「盟三五大切」

平成17年に歌舞伎座で初めて観て以来、これで4つの座組で観たことになる。どれにもそれぞれ一長一短あって、もう一度観たいのはどれかといえば、仁左衛門が三五郎役だった最初の座組。THE孝夫とでもいうべき役で個人的には何回でも繰り返し観たいが、客観的には「三五郎がかっこいい」がすべてになってしまって、成功した芝居とはいえないかもしれない。

自分にとって最も説得力があった源五兵衛は演舞場の染五郎。歌舞伎座で仁左衛門が源五兵衛をやった時は、他の配役も良くて全体的なレベルは高かったが、源五兵衛そのものは、五人切の場の迫力は凄かったが、あまり仁左衛門に合った役とも思わなかった。

今回は、仁左衛門は小万殺しの場にエネルギーを集中していて、ここが明らかに一番の見せ場になっている。芝雀の小万が素晴らしいので、この場が、より見ごたえあるものになった。時蔵にも亀治郎にも文句はなかったが、きょう芝雀を観たら、一番の小万だと思った。小万殺しは、油地獄の与兵衛はもうやらない仁左衛門にとって、それに代わるものだろうか。芝居全体を通して言うと、私は染五郎の源五兵衛の方が女にうつつを抜かして、三五郎と小万にコケにされて頭にきて5人を殺す若い男らしく見えたと思う。仁左衛門は源五兵衛の人間像より、歌舞伎らしい殺しの場の迫力を見せたかったのではないかと思う。

今月の三五郎は愛之助。今まで観た三五郎はみんな爽やか系だったが、愛之助は濃厚。この人の持ち味である。源五兵衛を騙そうとしている二軒茶屋の場では、様子を伺って表情が「お主も悪よのお」の悪家老のように嫌味ったらしく動く。これはこれで面白いと思う。小舟の上の濡場では、小万にのせる太い足がセクシーだった。

愛之助の三五郎は持ち役にしてほしいが、今月は良いところと悪いところがまだらにあった。台詞について全体的に気になったことがいくつかある。

小舟の上で小万と話しているのを聞いて、仁左衛門に習ったのだなと思った。愛之助は高い声も低い声も出せて素晴らしいが、台詞の間に声がひっくり返りすぎ。そのために台詞が聞き取りにくくなっているときがある。これは多分、日が経つにつれてよくなってくるだろう。

「おまえは何をそんなに焦っているのだ、少し落ち着け」と言ってやりたいようなしゃべり方が多かった。しかし、二軒茶屋の場で、源五兵衛は100両持っているかもしれない、と言うあたりの台詞は良くて、基本的にはとても台詞のうまい人だと感じた。

何かに反応して発する台詞の出だしが早すぎる。たとえば、幽霊に化けた大家の顔を見て「兄貴」と言うようなとき。「蝉しぐれ」のときも思ったのだが、ある物事や言葉と、それを見たり聞いたりして発する言葉の間には適当な「間」がないと不自然だし、観客に伝わらない。

三五郎が、亭主は「あっしでごんす」と言って源五兵衛の足元に腰をおろすと、色違いの同じ顔が上と下にあって面白い。顔だけをとってみれば、若い愛之助の方が、この芝居で一番の二枚目だった。

小舟の縁にハゼを叩きつけて殺すのは、仁左衛門が三五郎役のときにもやった。仁左衛門のハゼは小さくて、ペチッと叩きつける感じだったのだが、愛之助が持ったハゼは、なぜかもっと大きくて、ビシッと叩きつけている感じがした。不思議。

演舞場では菊之助の三五郎は亀治郎の小万の弟にしか見えなかったが、もっと年齢差のある芝雀愛之助が姉弟に見えなかったのは二人とも立派。しかし、最初に小万と源五兵衛が会うシーンでは、やっぱり芝雀仁左衛門の組み合わせの方が自然なせいか、二人が本当に好きあっているように見える。

芝雀は、かわいくて優しそうな女形だとは思っていたが、こんなうまい人だったかと思った。

5人切のとき、芝雀と愛之助は窓から出て花道に回っていた。演舞場でもそうだったが、歌舞伎座のときは戸口から出ていたと思うのだが。

殺しの場の最後、仁左衛門は花道の真中あたりから「人間五十年~」と敦盛を謡いだした。太鼓の音でよく聞こえなくて残念だった。

薪車の六七八衛門は、最後の方が良かった。初めの方も悪くはないのだが、釜や畳を持っていこうとする人間達と争うときに、もっと真剣味があったらと思う。最後は仁左衛門に頬かむりをしてもらって、抱きしめてもらって、憎らしいぞ、薪車!

富森助右衛門の段四郎は、帰るときに八衛門を「かずえもん」と最初に呼んでしまい、「はちえもん」と言い直していた。が、その後、仁左衛門が、「かずえもんの言う通り」と、間違えて、そのままだった。

猿弥が最初に船頭の役で出てくる。芸者菊野とカップルだが、これが松也で、身長差が10センチ以上ありそう。松也は美人だが、見える素足も大きいし、背を盗んでぐっと落としている腰も大きい。

大家の役は、弥十郎。薪車よりも長身。面白い役がうまい。

小万の首を見ながら源五兵衛が食事をしようとして、小万の口に箸を近づけたら小万が目と口を開くシーンは、歌舞伎座の時は仁左衛門が一瞬ものすごく驚いた顔をしたので、あの一瞬の顔芸がまた見られるかと期待したが、今回はやらなかった。

桶の中にいる三五郎が中から声を出すと、なんとなく笑える。

三五郎は腹を切って死ぬが、最後に仁左衛門が「まずこんにちはこれぎり~」と挨拶するので、愛之助は生き返って脱いでいた着物も着て、仁左衛門、段四郎と並んで座って挨拶する。