松竹座 二月花形歌舞伎 昼の部2012/02/18 22:10

2012年2月12日 松竹座 午前11時開演 1階5列13番

「慶安の狼」

本郷の居酒屋「柳屋」では、浪人たちが幕府批判をしている。子連れの浪人が入ってきて、子供の食べ物を頼んだ後、財布の中を確認し、酒を一本頼む。田中格之進(亀鶴)、石山平八(松也)も入ってきた。
下手の一段高いところで、奥にいる浪人と子供の隣りのテーブルについたが、テーブルの間が狭かったようで、松也がちょっと戸惑っていた。どうにか座った後で、テーブルを亀鶴の方に少し押していた。

丸橋忠弥(獅童)と、格之進、平八は由比正雪の道場に出入りしている。忠弥の幼馴染の小弥太(愛之助)は悪い評判がある道場に忠弥が出入りするのを心配している。

子連れの浪人をつかまえようと役人が来て、浪人は忠弥に助けを求めるが、忠弥は浪人は金をやって、町人になるように言う。

次の幕は忠弥の家。槍の稽古の声が聞こえている。金井半兵衛(友右衛門)は、将軍家光が死んで十歳の家綱が将軍になることを話し、由比正雪の統幕の決行は7月に決まったという。そして、正雪の命令なので小弥太を殺すように言う。驚いて断る忠弥。このとき、小弥太の来訪が告げられて、半兵衛は帰る。友右衛門が、昨夜に続き大人の雰囲気で良かった。

小弥太は、忠弥が頼んでいた仕官の話がまとまったと言いにきたのだった。忠弥は感謝するが、鳥籠を持った母(竹三郎)が出てきて、年取ってから出羽の国のような寒いところに行くのは嫌だ、槍の指南を始めてからは以前より暮らし向きも楽になったのだから、たいした禄高でもないのに江戸を離れるより、このままの方が良い、という。 忠弥が母に「黙っていなさい」と制止すると、母は怒ってひっこんで行き、妻(高麗蔵)が、「おかあさま、おかあさま」と後を追う。

竹三郎と高麗蔵が上流婦人の雰囲気で秀逸。高麗蔵は一心太助で家光の御台所だったし、上流婦人がニンだが、竹三郎は、権太の母のお米の役なんかも良いのに、この芝居のような我侭な武家の女もはまり役。長身で美形なのでさまになる。いつも思うが竹三郎は凄い。

仕官の話を受けたものの忠弥には迷いがあり、小弥太が帰った後、激しく槍の稽古をする。

柳屋で忠弥が飲んでいると、小弥太が駆け込んできて、それを追って格之進と平八が入ってきて、小弥太を斬ろうとする。忠弥は格之進と平八を斬って小弥太を助け、仕官の話はないことにする。

由比正雪の屋敷で、忠弥は正雪(染五郎)に酒を控えるように言われる。それは聞き入れたが、本吉新八(宗之助)と喧嘩になる。
正雪は新八に拳銃を渡し、忠弥を殺すように言う。そして、舞い始める。しばらくして、拳銃を手にした忠弥がよろよろと戻ってくる。正雪は舞い続ける。

数日後、柳屋で会った忠弥と小弥太。小弥太は酒を勧めるが、忠弥は正雪の言葉を守っていて断る。しかし、正雪の動静を探っている小弥太の言葉から正雪の本心を知った忠弥は、急に飲み始め、正雪の統幕計画をほのめかす。

佐竹家に戻った小弥太は、家老(歌六)に正雪の計画を告げる。家老は小弥太の忠義を褒めるが、小弥太が去ると、内藤主膳(薪車)に、小弥太を斬るように命じる。

忠弥の家では、加賀に仕官することになったと言って母と妻が旅支度をしている。そこに、忠弥を捕まえるために役人達が入ってくる。小弥太も来るが、いっしょに来た内藤主膳に斬られる。役人達と忠弥・小弥太組の立ち回りが始まる。真ん中に植え込みがあり、廻り舞台が回って、槍を持った忠弥と、刀を持った小弥太、それと役人たちが戦う。先に小弥太がやられたので、忠弥は紐で2人の身体を縛りつけ、そのままで戦い続ける。

正直、何を見せたい芝居なのかよくわからなかった。好みで言うと一番かっこ良いのは正雪。非情な男が染五郎のニンに合う。次は佐竹の家老。2人とも、考えてることがはっきりわかるのが良い。主人公とその友達の忠弥と小弥太は、若くても十代というほどではないだろうに、あまりにも迂闊で同情できない。死体を自分の身体にくくりつけてまでいっしょに戦うほど深い友情も読み取れなかった。男同士の友情ものだったら、数年前に浪花花形でやった大塩平八郎の乱の「浪華騒擾記」の方が遙かに面白かった。「慶安の狼」はひょっとすると男好みの話なのかもしれないが、少女マンガ脳の私の記憶に残るのは高麗蔵の「おかあさまー」だけだろう。

「大當り伏見の富くじ」


この芝居は普通の歌舞伎とは違うが、歌舞伎のモチーフは満載。

まず、基本的なストーリー。水島藩の家老は御家の重宝「稲穂に雀」の屏風を紛失したため浪人し、屏風を預かっていた佐野屋は潰れる。家老の娘は身を売って島原の太夫となり、佐野屋の息子は紙くず屋になる。実は2人は親が決めた許婚で、落としたお守りからそれが知れる。そして最後に御家の重宝が戻ってめでたしとなる。

その紙くず屋が、主人公の幸次郎。幕開き、また真ん中に染五郎が座っているが、研辰と違って二枚目のまま。自分の名前は幸次郎、幸四郎ではない、と幸四郎の話をし、その息子の染五郎のことは「アホや」という。

伏見稲荷の神主(千壽郎)が階段を下りてきて、富くじを買うように勧めるが、値段が一分と知って断る。幸次郎の言葉によると、一分は一両の四分の一だそうだから、2万5千円くらい? 宝くじとしたら、とっても高い。

家老の娘は身を売って鳰照太夫(翫雀) となった。その花魁道中に出くわした幸次郎が、鳰照に一目惚れ。このシーンは籠釣瓶のパロディ。花道七三で、翫雀がニマッとする。鳰照太夫は、履物が脱げ易いという設定で笑いをとる。

幸次郎が河原で見つけた財布を河童と取り合いするシーンが、水中ダンマリのようで面白かった。染五郎が上半身だけ見せてしゃべっている間に、下を着替えているみたいだったが、実は、別の足をつけていた。着ぐるみの河童も別の足をつけて、舞台の真ん中で2人が、つけた足を動かして水中で泳いでいるように見せる。横向き、前向き、いろいろに泳いで財布の奪い合いを見せる。ここは本当に感心した。で、最後に幸次郎が財布をゲットして、財布の中に手を入れ、「ゴジューリョー~」とやる。

幸次郎は、その五十両を持って鳰照太夫のいる島原へと向かう。花道七三で、染五郎の着替えがあった。私は役者が自分でちゃんと帯を結ぶのを見物するのが好き。

島原の遊郭には、遣手婆のお爪(竹三郎)、仲居頭のおとり(吉弥)、新造の雛江(米吉)などがいる。幸次郎はここで、お爪から富くじを買わされる。そして、太夫の千鳥の話から、自分の拾った財布は千鳥の恋人のものだと知り、金を全部千鳥に渡す。

水島藩家老黒住の役の獅童は目張りを思いっきり入れて、しりあがり寿のあやしいキャラみたいな顔になっている。カツラがしょっちゅう動いて、そのたびに直しているが、完全にとれてツルッとした頭になった方が二枚目に見える。幸次郎の妹お絹(壱太郎)をカワユシ、カワユシと言って、不思議な口調の台詞で口説く。

お爪は、お絹をどうにかしてやると持ちかける。竹三郎はこんな役でも面白い。家政婦のミタのパロディもやる。

黒住と鳰照太夫が伏見稲荷で話しているところを幸次郎が隠れて見ていた。幸次郎が去った後、落とした守り袋を鳰照が拾って、自分の許婚と知る。そして、島原に来た幸次郎に愛想尽かしをする。「次は勝手口からおいで」と。この時の翫雀は、恋人のためを思って心にもない愛想尽かしをする情のある女で、実に良い。

奇抜で新鮮でストーリー上も重要なキャラなのが、狆の小春。小春は人形のときと、千壽郎が特殊メイクで演じるときがある。人形を黒衣が漕ぐ車の前につなげ、走っているように見せたり、愛之助が抱えて話しかけたりしていた。
千壽郎の小春は、幸次郎と橋の上で友達のように話す。富くじの大当たりの番号は「1111」で、それを「わんわんわんわん」と読む。

富くじが当たった幸次郎は喜びのあまり、富くじを入れたくずかごを川に放り投げてしまう。

お爪たちが川をさらってくずかごを探しているところに現れるのが、舟に乗った信濃屋傳八(愛之助)。実は小春に話を聞いていて、偽の当たりくじの入ったくずかごを渡したのだった。

ショックで阿呆になった幸次郎。店にやってきた絵師の雪舟斎は、屏風をじっと見て、そこに絵を書き加えると、雀が戻ってきて、御家の重宝「稲穂に雀」が元通りになる。

最後は、全員で踊り。壱太郎と米吉が花道から出てきて七三で2人で踊ってから、舞台に行った。米吉は若葉の内侍と違って年齢に合った可愛い役。

亀鶴と松也は幸次郎の友達の役だった。リビングデッドで見たような町並みの書割を背景に登場するが、ストーリーにはあまり絡まない。この2人は今月、いつもいっしょに出てくる印象。

幕がしまったが、客はカーテンコールがあるのを知っているので、みんな手を打ちながら待つ。一度立ち上がった人も座りなおす。

真ん中の階段から役者が次々に登場。獅童と愛之助は2人で組んでポーズをとる。最後に染五郎が派手な衣装で扇子をもって踊りながら登場。

舞台に一列に並んで、真ん中は染五郎。その隣りに獅童。顔の左右で手を広げて、顔をいろんな方向に向ける獅童。方向を変えるたびに、客先が「かわいい~」と反応するので、染五郎が笑いながら、獅童を叩く仕草をした。

今月の公演は、染五郎と獅童の絡みを見るのが一番の楽しみだった。観る前は、染五郎が獅童に食われるときがあるのではないかと思っていたが、そんなことはなく、カーテンコールで初めて食われた感じ。今月は、獅童のキャリア負けといったところか。

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