四月花形歌舞伎 仮名手本忠臣蔵 初日 昼の部2012/04/01 22:17

2012年4月1日 新橋演舞場 午前11時開演 1階10列25番

忠臣蔵の芝居はいろんなお約束があり、見に行くのは、それを確かめに行くようなものだ。
まずは、「エッヘン。 エッヘン」の口上人形。主な役どころの役者は名前を2回言う。三役もやるのに名前は1回しか言われない亀鶴。 最後は人形の首が一回転する。

「大序」

下手から、幕がゆーーっくりと開く。役者はみな目をつぶっている。下手に座っている、若狭之助役の獅童が見えてくる。目をつぶっているときは、御園座の愛之助の方が綺麗だった。

幕が開ききって、最初に目を開くのは足利直義(亀寿)。高師直役の松緑が目を開いて動き始めたとき、本当に文楽人形のようだと思った。

松緑の師直がとても良かった。狆のような顔や舌足らずな台詞が、この役ではマイナスにならなくて、むしろ個性的な悪役になるのに役立っている。松緑は憎憎しいというより可愛い。愛嬌がある。それでも、所作が綺麗なので儀典の指導者らしさがある。

獅童は目を開けてからは、それこそ「かぶく者」にでも出てきそうなスッキリした二枚目の顔。直情的な若い綺麗な殿様をよく演じていた。扇子を投げ捨てるとき、愛之助は後ろに飛ばしていたが、獅童は横に投げた。

顔世御前(松也)が出てきたとき、松緑の師直は両手で前を隠すしぐさはしない。松也の顔世は、大柄で肉感的な女だ。師直に抱きつかれて嫌がっている様子が悶えているようにも見える。師直が言い寄るのも無理はない。

「三段目」

鷺坂伴内と中間達の「エッヘン」「バッサリ」の後、加古川本蔵の贈賄シーン。仮名手本忠臣蔵の作者は本当に大人だと思う。

松の間の場の前に、大道具さんが長いゴザを投げて1回で反対側まで敷きつめ、それを見て観客が拍手する。これもお約束。

若狭之助が去った後の師直の台詞「バカほどこわい」は、富十郎は強調して言って笑いをとっていたが松緑は普通の言い方だった。

誰がやってもいじめのシーンは面白いが、吉野山を踊ることもある2人が塩冶判官(菊之助)と師直なのも面白い。

最後に刀を抜き、皆に止められると刀を師直に向かって投げる。確か、実際は刀を持ったままだったはず。塩冶判官が止めている人たちの中で両手を伸ばしているのが、おなじみの最後のシーンだ。この時点で、仮名手本忠臣蔵はやっぱりとっても面白いと思った。

「四段目」

食事の後の四段目は睡魔との闘いだ。

力弥役の尾上右近は、女の役だと美人なのに男の役だと顔が長すぎて変な顔。塩冶判官の正面に手をついて、見詰め合って嫌々と首を振る。塩冶判官は目で語る。どういう関係なのかよくわかるシーンだ。判官切腹の後、顔世が出てきて、力弥が挨拶するシーンで、この2人はお互いにどう思ってるのかと考えた。昔はそんなこと当たり前だったのかもしれないが。

菊之助は菊五郎に似てきた。大序やいじめられているシーンのような折り目正しい感じの演技も良いが、由良之助が到着してからの、死ぬ間際の台詞のような、感情が昂ぶったシーンのときに、私は菊之助の魅力を一番強く感じる。

判官の「仇をとってほしい」気持ちを由良之助が感じ取って「承知した」と腹を叩くシーンは良い。これが忠臣蔵の発端だ。大勢の家来の人生を狂わせた最低の殿様だが。

城明け渡しの場の最後、大勢の家臣を説得する由良之助の声に線の細さを感じたのだが、門前で一人になり、判官の形見の血染めの刀を持って決意を新たにするシーンは、気持ちが強く伝わってきた。そして、花形で忠臣蔵をやると、「敵をとってやるぞ」という生々しい力、エネルギーが感じられると思った。自分が年をとり、花形役者が自分より二十も下になって、はじめてわかった。

「道行旅路の花婿」

前の幕までとは全く別世界の舞踊。
顔はちっとも綺麗じゃないが愛情が感じられるおかる勘平だった。
福助は生活力がある感じがするおかるだった。

個人的な病で、玉三郎のおかるはどうしてあんなに綺麗だったのだろうと考えながら観た。「賃仕事」のところの、あの華麗な、針を動かす手の動き。福助はずっと実質的。

御園座の仁左衛門を観て、この踊りは勘平は踊れなくても良いんだと思ったが、いかにも踊ってると見える動きではなくても、やっぱり亀治郎の所作は綺麗だ。まあ、若くて足も綺麗だし。

猿弥の伴内が、すごく自然な伴内で、久しぶりに本物の伴内を観たような気がした。