新春浅草歌舞伎 初日 第一部2015/01/02 20:40

2015年1月2日 浅草公会堂 午前11時開演 1階く列19番

挨拶は今年から二人体制になった。きょうは巳之助と歌昇。歌昇はわりと口下手。満員の客がいるのを見ただけで泣けそう、という。巳之助は四回目の浅草。トークはうまい。稽古が遅い時間まであって、二人でお風呂に入っていたら出てくるお湯が冷たくなり、湯船に残っていたお湯をバサッ、バサッ、とかけた、とジェスチャーを交えて語った。

「春調娘七種」

紅梅、白梅が描かれた襖が開いて三人が出てくる。背景には富士山。
松也の五郎、隼人の十郎と、真ん中に静御前の児太郎。強そうな五郎、少し弱そうな十郎、綺麗な静、とそれぞれ役にふさわしかった。

「一條大蔵譚」

前に国立劇場の研修発表会で、歌昇の大蔵卿、米吉の常盤御前を観たことがある。そのときは米吉の常盤御前が気品があってとても良く、歌昇の大蔵卿はピンと来なかった記憶がある。しかし今回は、米吉の常盤御前は、たぶん役者として成長したために、気品を強く感じなくて平凡な印象。逆に歌昇の大蔵卿が予想外に良かった。ニンにないと思っていたのだが、基本的に「可愛い」自分のニンを生かしてつくり阿呆を作っている。にまっと笑うと可愛いが、それでもとってつけた感じでなくつくり阿呆になっている。前のように所作だけはうまい、という感じではなく、全体的に歌昇の大蔵卿が出来上がっていた。プログラムを見ると研修発表会の直後から一か月演じてみたかったようで、じっくり役作りができたのだろう。

松也の鬼次郎は今まで見たどの鬼次郎よりも強そう。児太郎のお京は行儀が良い。

勘解由役の吉之助と鳴瀬の芝のぶが出てくると、ああ大人が出て来た、という感じがする。

「独楽売」

きょうの挨拶によれば、本興行では60年ぶりにかかる珍しい演目だそうだ。

初めに、舞妓役の鶴松と梅丸が二人を挟んで上手、下手に分かれて踊るので、どちらも観たい私は困る。

芸者は芝のぶと米吉だが、米吉と気づかず、草刈民代みたいな派手な美人だと思って見ていた。ずいぶん大人っぽく色っぽくなった。

独楽売役の巳之助と種之助は花道から出てくる。

巳之助の踊りの比重が高く、かつよく踊っていて、必死に稽古したのだろうと胸が熱くなった。見入っている人が多かった。三津五郎の踊り方に似ている。

種之助と鶴松、種之助と梅丸のような私の好きな組み合わせになることもあったが、あっという間に終わってしまった。

獅子舞が出てきて、その尻尾を引っ張る種之助が可愛かった。

巳之助と種之助が二人で棒を持ち、それを傾けて独楽を動かしていたが、どんな仕掛けになっているのだろう。二人が動かしている独楽を後ろに座っている芸者、舞妓が見て喜んでいる様子が楽しい。

踊りが楽しめてお正月らしい、とても良い演目だった。

新春浅草歌舞伎 初日 第二部2015/01/03 00:48

2015年1月2日 浅草公会堂 午後3時開演 一階き列19番

挨拶は米吉と種之助の従兄弟。米吉は口が達者。種之助はちょっと口下手。小川家の人間が歌舞伎界にはたくさんいて、浅草にはその小川家に所縁の神社がある、という話をした。
演目の説明で、米吉が、イスカという鳥がいて、くちばしが上下食い違っていて、勘平の台詞に「いすかの口のなんとかいうのがある」と言って、「いすかの~」の後が出て来なかったら、客席から「いすかのはしの食い違い」と教えられていた。「女形なので勘平役はやらないかと思って」と米吉が言った。

知らない言葉だったので調べてみたが、イスカのくちばしの上下食い違った形から、物事が食い違って思うようにならないことを「イスカのはしの食い違い」と言うそうだ。そして、勘平の台詞の中に「交喙(いすか)の嘴(はし)と 食い違い 言い訳無さに 勘平が・・・」というのがあるそうだ。ひとつ利口になった。

「忠臣蔵 五段目・六段目」

松也の勘平は危なげがなくて良い出来。「30になるやならず」の勘平を、今29歳の松也が演じる。さらっと演じる菊五郎と違って松也はところどころで表情豊か。定九郎の死体を確認して去ろうとして、もう一度死体のところへ戻る前の花道での表情が印象的だった。
おかるを呼び戻して膝の上に乗せるときは、菊五郎と同じく自分が動いておかるの方に身体を向けるようにしていた。わーっと泣き伏すところは、おかるともども派手に泣いているが、まあ、若い人だからしかたないかと思う。
気になったのは、おかや(芝喜松)と二人での演技がまだしっかりからんでいる感じがしないのと、勘平の台詞で一番楽しみな「いかなればこそ勘平は」以下の一連の台詞が力が抜けすぎているような感じで、やや聞き取りにくいことだ。

巳之助の定九郎は、稲掛けからつき出た手がパッと広がってわかりやすい。姿を現したとき、すごく痩せているのに今更ながら驚く。去年の「上州土産百両首」 の牙次郎の役にはあの身体がピッタリだったが、定九郎はもう少し肉付きがないと観客サービスにならないのではないか。猪より軽そうで、松也があんな風に引っ張ったら、すぐズルズル動いてしまいそうに見える。

おかる役の児太郎は、今月は全体的にどの役も破綻がない。

二人で勘平を訪ねて来る千崎弥五郎(隼人)と不破数右衛門(歌昇)は、大人びた化粧をしている。二人とも勘平ができそうなイケメンだが、特に隼人は最近いい男度が増した。二人とも勘平より年上の設定なのだろうが、不破は千崎より年上なんだろうと、今までぼーっとしていて気づかなかったが今回の二人を見て初めてはっきり意識した。

「猩々」

種之助の猩々は又五郎歌昇襲名の南座で観たことがある。第一部の「独楽売」では種之助の踊りがじっくり観られなくて物足りなかったので、この演目は嬉しい。酒売り役は隼人。
猩々は赤い毛の生き物。妖精らしい。酒を飲んで酔っぱらった踊りもある。
種之助が花道にいて幕がしまり、お囃子が四人、幕の外に出てきて、幕外の引っ込みになった。大きく動いて、クルクルまわるところもあり、なかなか見応えがあった。たぶん、次の幕の用意のために幕を閉めるのだろうが、種之助にとってはラッキーなことだ。

「俄獅子」

鳶頭の松也、歌昇、巳之助、芸者の米吉、児太郎が中心の舞踊。花道から松也が出てくるのを待って、客席といっしょに一本締めをする。松也はこの演目でも中心なので、第二部はほとんど松也祭り状態。それに違和感がないくらい松也は堂々としていた。
ただ踊りが一番うまいのは歌昇。歌昇と児太郎がいっしょに踊るときがこの演目の中では一番レベルが高かったと思う。
これもお正月らしく華やかな演目だった。

新春浅草歌舞伎 第二部2015/01/06 22:01

2015,年1月5日 浅草公会堂 午後3時開演 1階せ列39番

今日の挨拶は松也と隼人だが、二人とも最初の幕に出るから拵えして出てくるに違いないと思ったが、まず松也が裃姿で一人で挨拶。そこに、やはり裃姿の隼人が花道を走って出てきて、七三のところであたりを照らすかっこうをした。研修会でやった鬼次郎の出方だ。「(今月、鬼次郎役をやっている)松也にいさんの楽屋から借りてきた」という、手に持った照明器具は龕灯(がんどう)というものだそうだ。

二人とも長身だが、隼人は顔が小さい。「僕たち二人から告知があります」と言って、二人でそれぞれ自分のカレンダーを手に持って見せた。そっと一枚めくって見せる隼人。

最後に二人で座って演目の紹介。松也が五、六段目で、隼人は舞踊。「猩々」の中の隼人の役は孝行息子だとか、種之助が踊る猩々の世界観を楽しんでほしいとか、「俄獅子」の「ニワカ」とは、道端で急に始める芸、とか、なるほどと思いながら聞いた。普通の話し方でなく歌舞伎の台詞風のしゃべり方だと松也と隼人の年齢差を感じる。だんだん感じなくなっていくものなのか、はたまた・・・。

携帯電話の電源を切るお願いの後、松也が「もう一つお願いです」と隼人に振ったら、隼人が「もう一つ」と言って不意をつかれた感じだった。松也は「これはハプニングですね。すっかり忘れてる。私たちはこの後の幕に出るので、用意ができるまでしばらくお待ちください」と言った。

「忠臣蔵 五、六段目」

浅黄幕が落ちると、勘平の松也が道端に座っていて、そこに花道から、千崎役の隼人が出てくる。挨拶のときと同じだ。初日に観たときは前の人の頭で松也が隠れていたりしたが、きょうの席は後ろだが舞台の上は全部見える。

巳之助の定九郎は痩せていてナイトメアビフォアクリスマスを思い出す。それなりの美しさはある。

五段目は若手三人だが、六段目の幕が開くと、舞台にはおかやの芝喜松、一文字屋お才の歌女之丞、源六の蝶十郎、と大人三人が揃っていて「いつもの歌舞伎」の雰囲気。

児太郎はあくまで控えめでいながら、必要なときはしっかり動いている。無駄な動きがなくてすっきり。顔は可愛くないが、立派な女房おかるだ。

松也は力が強そうなので、おかるが乗った駕籠をちょっと押しただけで、駕籠かき達が押し戻されてしまうのが自然のことに感じる。

仁左衛門と竹三郎を見慣れた目からは、芝喜松のおかやは松也との体格差があれだけあるんだから、もっと暴力的になってもかまわないのではないかと思う。

勘平を訪ねて来る不破数右衛門の歌昇と、千崎弥五郎の隼人。五段目で千崎が地面に文字を書いているところや、数右衛門が血判状を出して見せて勘平に血判を押させ、またしまうような、台詞も踊りもない日常の動きを見るのが好きだ。二人ともとても丁寧にやっている。

「猩々」

この席だと、隼人と種之助の足先まで見える。

隼人が先に出てきて一人で踊る姿が綺麗で目の保養。

種之助の踊りもきょうは障害物なく全体が観られて嬉しい。やっぱり最後の花道での踊りが圧巻。七三あたりでしばらく所作があって、最後は何回かくるくる回った後、横向きで引っ込む。

「俄獅子」

初日の席は歌昇と米吉がせり上がって来る姿がよく見えなかった。きょうははっきり見えて、米吉は色っぽい芸者、歌昇はいなせな鳶頭。歌昇は、雰囲気的にこの姿が基本みたいな気がする。

上手から巳之助と児太郎が出てくる。そして、花道から松也。

花道からは、黒い馬の後ろからヒツジの姿の若い者が出てくる。初日はヒツジに気づかなかったが、干支の交代を表しているのだ。馬が後ろ脚で立ち上がったり、馬の足だった二人が馬の被り物をとるとヒツジになって若い者たちの中にまじって踊り出したり、正月らしい明るい踊りだった。