もとの黙阿弥2015/08/03 01:28

愛之助ごのみ弁当
2015年8月2日 新橋演舞場 午前11時半開演 1階4列13番

少し遅刻して着席。舞台では坂東飛鶴(波乃久里子)がかっぽれを教えているところで、「黄色い声を出して」と言っていた。芝居小屋が興行停止になって、「よろず稽古指南所」になっている。看板には、裁縫、洋食作法、西洋舞踏まであって面白そう。

書生の久松役の早乙女太一は前輪が大きく後輪が小さい二輪車で飛びこんでくる、という衝撃的な登場。久松の主人にあたるのが男爵家の跡取りの隆次(愛之助)。愛之助は早乙女と同じ二輪車をゆっくりこいで花道から登場。愛之助は少し前より顔がすっきりした。目鼻立ちがくっきりして、目が大きいことがよくわかるようになった。京都から来たお公家さんの役だから愛之助に合っている。

隆次と鹿鳴館で見合いをする予定の豪商の娘、お琴は貫地谷しほり。大人しい役で、特にこの人が演じる必然性がない。女中のおしげは真飛聖で、こっちの役の方が目立つ。

鹿鳴館で見合いをする前に、隆次とお琴は、「よろず稽古指南所」で洋食作法と西洋舞踏を習う。精養軒から洋食を出前に来る役が愛一郎で、けっこう目立つ。

隆次の姉役の床嶋佳子は品の良い美貌がいかにも華族さまという雰囲気ではまり役。

隆次とお琴は相手の本性を見極めるために、久松と隆次、おしげとお琴が入れ替わる。洋食作法でコーヒーを飲んでいるときに、隆次に成り切れない久松がおかしなことを言ってしまい、隆次がコーヒーを吹くシーンも。

書生と女中のふりをしている隆次とお琴の変な会話を盗み聞きしている付け焼きパン屋実はスパイ役の酒向芳が見た目も演技も良い味を出していた。

劇中劇が3つある。音楽劇では宝塚出身の真飛が水を得た魚のように生き生きと歌って踊る。共演の早乙女は歌が弱く、着物を着るわけではないので不利か。宝塚の男役だった人と、女形をやる早乙女という組み合わせが面白い。劇中劇以外の普通の芝居のところでは、二人ともメリハリがきいた演技でとても良かった。

隆次の姉は演劇改良運動に熱心で、芝居はリアルでなければいけないという考えで、床嶋は「写実劇」に出る。精養軒で貧しい母と入学試験に合格した息子が食事をするシーンで、コントのようで面白かった。

愛之助は「歌舞伎劇」に出て「おまんまの立ち廻り」というのをやるが、素人として演じなければならないので歌舞伎役者としての芸は封じられている。出てくるときの歩き方からして全く歌舞伎になっていない。せっかく愛之助が出ているのにもったいない。

最後に、隆次とお琴は互いに入れ替わっていたことに気づく。しかし、男爵と結婚すれば病気の父は順天堂に入院させられる、弟や妹といっしょに暮らせる、と夢を描いたおしげは元の自分に戻れない。苦い結末だが、隆次とお琴、久松とおしげが結ばれてめでたし、となるような予定調和的な終わりよりは気が利いている。しかし、具体的に何になりたいというわけでもないのに隆次が男爵家の跡取りになるのをやめるのは、考えが甘いとしか思えない。隆次は実は芝居狂いで芸事が好きで、歌舞伎役者になる決心をした、とか言うのなら、愛之助がこの役をやる意味があるし、歌舞伎劇のときにもう少し歌舞伎っぽく演じることもできるし、と思うのだが。