新橋演舞場 11月花形歌舞伎 初日 夜の部2008/11/02 01:56

2008年11月1日 新橋演舞場 午後4時開演 1階1列10番

「伽羅先代萩」

7月に観た「花水橋」が良くて話が頭に入ったので、今月も退屈しないで観られた。亀三郎の頼兼は菊之助ほど不思議な魅力はないが、口跡が良いので気持ちいい。男女蔵の絹川は、身体が大きいので相撲取りらしくて良い。

「竹の間」の千松役(きょうはたぶん秋山君)は、花道を歩いていくのを見るとまだ小さいのに、若君の後を太刀を持って歩き、それを刀掛けに横に置いて、若君にきちんとお辞儀をするので、感心する。

菊之助の政岡はきりっとしていて良い。梅幸、菊五郎の政岡を見てきたが、菊之助がひょっとして一番良いかもしれない、と期待が高まる。

八汐の愛之助が花道を出てきたので、後ろを振り返って凝視した。花道七三に座ったのを見たら顔は八汐の時の仁左衛門にそっくり。丸に二の字の簪を挿しているのは初めて気づいたが、仁左衛門も同じだったのだろう。手の甲まで真っ白に白粉を塗っていて、血管がよくわからなかった。

愛之助は台詞はうまいし、所作もしっかりしているし、悪いところは何もないのだが、仁左衛門の八汐のときのように愛之助の台詞や所作で客が笑ったりすることが少ない。客が笑うのは主に鶴千代の言うことがおかしいからである。沖の井と松島にやりこめられると、役者の年齢のせいもあって、年上の奥さん達にいじめられる負け犬のようにも見える。

「御殿」で政岡が栄御前を見送って花道に立っているところは7月の藤十郎が何とも言えないすごい表情をしていたのが忘れられない。菊之助の政岡は「千松、よく死んでくれました」の台詞の「よく死んで」のあたりを息をつめて言っていて、あの高音で今にも泣き出しそうに嘆かれると、聞いている側が反射的に顔をゆがませてもらい泣きしてしまう。

私は今まで、政岡というと泣けるか泣けないかばかり気にしていたが、今月の菊之助を経験して、泣くか否かは人間の生理的反応に左右されることなので、泣けるイコールうまい政岡、と言えるわけではないと気づいた。今月の菊之助は偶々良い政岡だったが。

政岡があんまり良かったので、八汐がもう一度出てきて政岡に殺されるシーンがどうでも良いものに思えた。愛之助は殺されるときの目をむく表情が通り一遍でつまらなかった。 八汐は本来、今回感じた程度の役なのかもしれない。仁左衛門がやると完全にその場を支配してしまい、出ている限り八汐が主役のような雰囲気なのだが、あれは仁左衛門がうますぎ、魅力がありすぎだからだ。

「床下」の獅童の男之助は、いつもながら顔が立派。全体は、もっと離れたところから見ないとわからない。鼠がすっぽんに飛び込み、面明かりを持った黒衣さんが花道に出てきて、すっぽんから煙とともに海老蔵の仁木が出てきてからは、後ろを向いてそちらに集中してしまった。海老蔵が細長い指を二本立てて動かすのが魅惑的。

しかし、海老蔵の仁木は花道を歩くときが最高だった。休憩をはさんで「対決・刃傷」になると、わざとニヒルなキャラを作ろうとして変なしゃべり方をしたり、目をむいたり鼻を鳴らしたりするのでがっかりした。

刃傷のときのお囃子はいつ聞いても心が躍る。

「龍虎」

きょうの席は黒御簾に近く、音楽がよく聞こえた。龍虎の踊りの時には鼓、笛だけでなく琴も聞こえた。

「龍虎」のポスターでは愛之助と獅童は鬣姿だが、出てきたときには鬣はなく、獅童は銀の冠に虎のフィギュア、愛之助は金の冠の上に龍のフィギュアを載せている。ちょっと踊った後、愛之助が背景に隠れ、次に獅童が隠れて、出てきたときは二人とも鬣をつけ、顔を隈取っていた。その隈取りが、虎にも龍にも見えなくて、単におかしな顔になっただけ。最前列の席なので二人の動きが全体としてどんな形になっていたのかわからないが、別々に鬣を動かしている感じ。変わった振り付けで、二人で腕を交差して組んで動いたりするところは笑った。

途中で引き抜きがあり、二人が舞台にしばらく突っ伏して顔を上げると、二人とも隈がとれて元の綺麗な顔になっていた。最後は二人が寄り添ってポーズをとって終わった。黒い鬣が愛之助で、茶髪の鬣が獅童なのは、二人の雰囲気に合っていると思った。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://wonwon50.asablo.jp/blog/2008/11/02/3867549/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。