2009年松竹座 初春大歌舞伎 夜の部2009/01/10 22:37

2009年1月10日 松竹座 午後4時開演 1階2列6番

「霊験亀山鉾」

愛之助の関西での公演が続いてうんざりしたので12月に続き今月も見ないつもりだったのだが、「霊験亀山鉾」を再演するときいて大阪に行くことにした。2002年の10月に国立劇場でやったとき観たのに観たこと自体を忘れていた。チケットの半券が残っていてプログラムもあって、さらに仁左衛門が出たと知って狐につままれたような気分だった。当時、何か他のことで頭が一杯だったとしても、仁左衛門が出たにもかかわらず記憶を喪失してしまう芝居とは一体どんなものだったのか是非知りたいと思った。

実際に芝居を見たら思い出すかと思ったが、かすかに記憶に残っていたのは三ヶ所。生きている水右衛門を入れた棺おけを担いでいる人足が、「中は死人ではない」というところ、雨の中の八郎兵衛とおつまの立ち回り、それとホームレスの住居みたいなのの横に卜庵が座っている場面。

序幕第一場で僧了善役の松之助が、この芝居のキーアイテムである「鵜の丸の一巻」を広げると、木の幹と地面に、差し金に操られた蛇が現れた。

第二場は敵討ちの場で、兵助(進之介)が水右衛門(仁左衛門)に返り討ちにあう。この場で仁左衛門が上手から出てきたのも「意外だったこと」として覚えているような気がする。この場が幕になると瓦版売りが二人出てきて、持っている瓦版を客席に投げた。私も一枚もらえた。

第三場では源之丞(愛之助)の隠し妻おまつ役の孝太郎が出る。柄に合った役でなかなか良い。孝太郎や嶋之丞がこの場で言っている言葉に私にはわからない個所がある。イヤホンガイドでは説明されているのだろうが。「太ももに けなり」などは前後から判断して何か猥褻系のことだとは推測できるのだが。愛之助は兄嫁役の吉弥といっしょに花道から出てくる。二人とも綺麗な顔。

二幕目の丹波屋の場では、女将おりき役の秀太郎がいかがわしくていい。花道会のときに吉原の女将は自信ありません、といっていたが、こういう上方ものはお手の物だろう。芸者おつま役の扇雀は綺麗だが、こういう健気に尽くす役よりも何か一癖ありそうな役の方が向いている。愛之助演じる源之丞は、序幕のときと人格に連続性がないように感じた。こんぴら歌舞伎の「葛の葉」でも感じたが扇雀のキャラの強さに愛之助が負けてしまって、この二人のカップルは似合わない。扇雀は轟金六役の薪車と並んだ方が合う。仁左衛門が相手のときも良い。

薪車は、裏が松嶋屋の紋で表が水右衛門の顔の団扇を腰に差して出てくるが、あの団扇を売店で売ってくれないものかと思った。

この場で八郎兵衛役の仁左衛門が出てくるとき、黒御簾の音楽が「丸に二の字は松嶋屋の~」と歌うのが楽しい。伊勢音頭の「ベンベラベンベラ」とかを思い出す。

水右衛門の人相書きが、官兵衛(翫雀) には当てはまらず、 八郎兵衛(仁左衛門)の方にぴったりだ、という話が面白かった。

私にはカチャッという音だけ聞こえて見えなかったのだが、仲居達が奥に引っ込むあたりでおつま役の扇雀がお銚子か何かをひっくり返したらしい。中に液体が入っていたのかどうかわからないが、隣りにいた八郎兵衛役の仁左衛門が自分の手ぬぐいをさっと投げ、扇雀が謝って拭き終ったら、仁左衛門がその手ぬぐいを奥に引っ込む仲居が持っている卓の上にぞんざいに放り投げた。役になりきった咄嗟の動きが素晴らしい。

この場の最後の方に扇雀が文を書く場面がある。扇雀が書いている文字が見えたので、こんぴら歌舞伎の葛の葉が障子に書いた文字は達筆で、去年の国立の芝雀の字はあまりうまくなかったことを思い出した。

次の場では源之丞が水右衛門に返り討ちにされる。源之丞は水右衛門にさんざん踏んづけられた後斬られて叢に隠れ、また叢から出てくるが、悲鳴は下手の方に流れて行ったので、愛之助の早変りがあるのだと気づいた。愛之助は花道から袖助になって出てきた。他の面々も出てきて最後はだんまり。ここで初めて段四郎が登場。

三幕目の一場で、生きている水右衛門を入れた棺おけを担いでいる人足達(千蔵、千志郎)と秀太郎が花道から出てくる。村人たちが狼が出ると騒いでいるが、その出てきた狼の酷いこと。顔は狼だがあんなガニ股ではかわうそのようだ。狼はもっと美しい生き物だぞ。別の棺桶をかついて来た人足達が、狼に驚いて水右衛門を入れた棺おけをかついで焼き場に行ってしまう。

次の焼き場の場で、舞台の上から本水が降って、その下で八郎兵衛とおつまの立ち回りになる。女殺油地獄の油の上の立ち回りを横から見たような感じで、何回か滑って転ぶ。本水を使うので、最前列には予めビニールが配られていた。

八郎兵衛はおつまにやられるが、棺桶の中にいた水右衛門は火がついた棺桶の中から現れておつまを殺す。そして笑って幕になる。仁左衛門がすごくかっこいいので、悪の勝利に拍手してしまうのであった。

ここで三十分の休憩。

休憩の後、中幕として「春寿松萬歳」という前後の芝居とは全く無関係な舞踊が入る。坂田藤十郎が赤地の衣装に黄緑の扇を持ってせりあがって来た。途中で引き抜きがあって白地の衣装になる。華やかで実に正月にふさわしい。

踏み板を片付けた後、四幕目。近くの人が言ってるので気づいたのだが、花道の踏み板を幕の向こうに運びいれるとき、運ぶ人が幕の近くの踏み板を踏み鳴らして合図し、中の人に幕を持ち上げてもらっていた。

四幕目の最初はお松とその子が源之丞の死を知らずに待っている家。お松の父親役は段四郎。地味な役だがこの人がいると芝居全体がひきしまる。愛之助は袖助役で出るが、このときの顔が一番似合っていると思う。家の戸の外で中をうかがいながら目をつぶってじっと待っている時間が長い。秀太郎は二役目の源之丞の母役。仁左衛門、愛之助と違い、全くタイプの違う二役なので区別しやすい。

次の場では、牡丹燈篭の源次郎が住んでいたようなホームレスの住居があって、その横に卜庵(我當)が座っている。国立劇場のときは卜庵の役は仁左衛門だったので、この場面が記憶にある。ホームレスの住居に住んでいるのは愛之助だが、誰の役なのかわからなかった。前の場で源之丞の息子の剣の相手をしていたような袖助とホームレスとが結びつかなかったからである。が、よく考えてみると、故意にこの住居に住んで水右衛門の父である卜庵を待っていたということか。

大詰では結局水右衛門がお松とその息子、袖助に討たれる。水右衛門役の仁左衛門は花道を出てきてすっぽんのところに座ったので、至近距離から顔を拝めた。 容貌が似ているとよく言われる仁左衛門と愛之助だが、この場では、仁左衛門風の顔で声も似たような低い声の愛之助と、本当の仁左衛門がからむ場面が多くて面白かった。 

水右衛門がお松達との立ち回りの前に上の着物を脱ぐと仁木弾正のような鎖帷子の衣装になるが、死に方も仁木と同じだった。

最後は、仰向けにひっくり返って死んでいた仁木が起き上がって「今日はこれぎり」と挨拶して幕になった。

仁左衛門のかっこよさがすべてみたいな演目で、もう一度見たいとは思わないが見ている間は飽きずに見られた。国立劇場で観たときは、大した作品ではないと評価した後、思い出すこともなかったのですっかり忘れてしまったのだろう。ブログでも書いていれば覚えていたろうが。

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