新春浅草歌舞伎 初日 第1部2010/01/03 01:01

2010年1月2日 浅草公会堂 午前 11 時開演 1階え列17番

お年玉ご挨拶は七之助。

「正札附根元草摺」

出演者のインタビューを聞くために借りたイヤホンガイドだが、こういう演目のときに説明を聞いていると、自分が知らない名詞が次から次へと出る。「市松模様の油障子」だの力紙だのカマヒゲだの。五郎と朝比奈の衣装の説明に使われている用語はほとんど全部知らない。「草摺」が、鎧の下部のヒラヒラした部分、というのも初めて知った。

鳴物は、真正面に昨日に続いて顔を見る傳次郎。五郎と朝比奈がせり上がってきたとき、五郎の方を勘太郎かと思って、結婚して少し太ったのかと思ったら、五郎は亀治郎だった。

朝比奈の踊りが期待以上に良かった。

「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」

愛之助の綱豊は、初め、いつもの愛之助が殿様の格好をしているだけだった。台詞が仁左衛門よりもこってりしていて私の好みからすると重すぎる。それは、思い入れたっぷりの「討たせたいのう」で頂点に達したが、その後しつこさが抜けて、高笑いでこの幕が終わるまですっきりしていた。

この重すぎる綱豊は、亀治郎のけたたましい助右衛門を受け止めるのにちょうど良かったようだ。質感は違っても「過度」なところがある両者はよく合い、完全に亀治郎の作品になっていた「かさね」のときと違って、2人が互角に渡り合っている感じがした。

今月に限らずこの演目は助右衛門が出てくるまでは退屈なのだが、亀治郎はどの助右衛門よりも笑いをとっていた。おかしなことをするわけではなく、台詞の調子で滑稽さを演出している。

愛之助は、羽織を脱いで白い着物だけになった時の方が顔が綺麗に見える。助右衛門と論争しながら時折助右衛門に向ける皮肉っぽい切れ長の目が魅力的だった。助右衛門との台詞の応酬が白熱してくると、歌い上げるような調子になってくる。やっぱり義太夫狂言に向いている人なのかもしれない。

「忍夜恋曲者」

去年の亀治郎の会で亀治郎がやった滝夜叉姫を七之助が、段四郎がやった光圀の役を勘太郎がやった。

舞台装置は一見亀治郎の会の時と同じなのだが、後ろに建っている屋敷は真ん中に折れ目がなくて、畳んでつぶれるようには見えなかった。浅草の屋台崩しは屋敷がせり下がった。

滝夜叉姫はすっぽんから出てくるのではなく、下手から出てきて、面灯りを持った黒衣2人がついた。

蝦蟇は出てきたが、宙のりはなかった。

演出は亀治郎の会の時より地味だったが、光圀の踊りは勘太郎の方がずっとうまかった。

新春浅草歌舞伎 初日 第2部2010/01/03 04:06

2010年1月2日 浅草公会堂 午後3時半開演 1階い列28番

お年玉ご挨拶は亀治郎。新年の挨拶から、プログラムには袖萩の人物相関図が載っていてよくわかる、イヤホンガイドを借りればさらによくわかる、という営業トーク、最後には、舞台が静かな時ほど携帯が鳴るのでもう一度ご確認を、と神経が行き届いた挨拶だった。

「奥州安達原 袖萩祭文」

亀治郎の会と巡業で、2種類の演出を観たが、これは、また別の演出だ。

亀治郎がやった二役の袖萩と貞任を今月は勘太郎がやる。しかし、二役と言っても、貞任の登場前に袖萩は死んでしまうので、亀治郎の時のように客席に背中を向けた貞任が袖萩の台詞を言ったり、袖萩の替え玉が出たり、ということはない。

最初の方で花道から出てきた袖萩と娘のおきみが、木戸の外で雪に降られ、おきみが自分の着物を脱いで母に着せかけたりするのだが、亀治郎の時と違って雪後見が帯を解くのを手伝ったりするせいか、子役 のけなげさの印象が薄い。涙を誘うのは孫を思う祖母浜夕の台詞である。

勘太郎は袖萩も良いが、背が高いので貞任が立派。ぶっかえりの時に衣装が映える。最後に黒い袖をくるくるっと巻いて決まるのがかっこ良かった。

義家(七之助)は、あまり動きがないのは同じだが、亀治郎主役のときのように上手にずっと動かないでいるような印象ではない。

観るのは数回目だが、イヤホンガイドの説明を聞いていると知らなかったことがたくさんある。桂中納言の格好をした貞任が現れると、プログラムを確認する観客が多い。亀治郎は、春秋座のポストトークの時に、中納言が突然現れると観客が理解しにくいので、中納言の入りからやる、と言った。そして、亀治郎の会の時は最初に中納言が出てきた。しかし巡業の時はそうではなかった。私は、中納言が突然現れて、観客に一瞬誰だかわからないのはかまわないと思う。すぐ後の種明かしでわかるのだから。

実際に書く場面を出すかイヤホンガイドの説明がなければわからないのではないかと思ったのは、源氏の白旗に書いた赤字の和歌。亀治郎主役の時は宗任が口に何か加えて旗の上に字を書く場面があったが、今月はない。

宗任役の愛之助は安定した演技。今月は太い声の役が多い。最後の貞任、義家と三人の渡り台詞もみんな口跡が良くて見事だった。

貞任役の勘太郎は、最後に赤旗を出すときに客席の方に放り投げたので、客の頭の上に赤旗をかぶせる思い切った演出かと驚いたが、放り投げた旗をうまく舞台の方に回収していた。 亀治郎が主役のときとの演出の違いにいろいろ思うところはあったが、最後は綺麗で盛り上がって、良い芝居だった。

「悪太郎」

はじめて観た。亀治郎の挨拶の時の言葉によると、段四郎が演じて以来二十年ぶりにやるそうだ。

大酒飲みで酒乱だが憎めない、という悪太郎のキャラは、段四郎がやった方がかわいいのではないかと思った。亀治郎は顔はよく似ているがキャラが違う。

悪太郎の伯父役の愛之助と、太郎冠者の男女蔵は、役が逆の方が良かったのではないか。

そういう細かいキャラの違いは別として、話も踊りも面白くなかった。狂言からとった話だが、腕白の悪太郎をこらしめるのを見てもカタルシスはない。踊りの振付が特に面白いわけでもない。

猿翁十種ということだが、猿翁が演じたときはどういう条件で客に受けたのだろうか。今月は亀治郎以外は踊りの腕はそれほどでもないからつまらないのだろうか。