映画「宮城野〈ディレクターズカット版〉」プレス試写2010/12/23 17:07

12/17(金)の午後2時からと12/20(月)の午後7時から、映画「宮城野〈ディレクターズカット版〉」プレス試写に行った。場所は虎ノ門にある試写室。1階にセブンイレブンがあるビルの地下1階で、座席数は30ほど。すわり心地の良い上等な椅子だった。


知り合いの好意でもぐりこませてもらったので、どの人がプレスの人だかわからなかったが、横の方で写真をとっている人がいた。

「宮城野」を見るのはこれで4回目。

最後の10分を見なかった蓼科の映画祭、短縮版があると知った赤坂レッドシアター、再びディレクターズカットを見るために行って最後のシーンに衝撃を受けた名古屋シネマテーク。名古屋では道に迷って何分か遅刻したので、今回初めて、ディレクターズカット版を最初から最後までちゃんと見たことになる。 感想はその時々で異なるので、このブログに「宮城野」というカテゴリを作ってまとめた。今回の上映は画像も音響も最高、と事前に聞いていたが、確かに、遊郭の中のよその部屋の声や外のざわめきを画面上の人の声とは別に聞きわけることができた。

今回見て新たに確認できたことの一つは、薪車の口上。宮城野が処刑されて柝が入った後、場面が変わって、薪車の口上が入る。今までは、口上というので、薪車が裃を着て現れるのだと思い込んでいたので、わからなかった。声だけだったのだ。

だんまりのシーンのとき、役者達が宮城野の絵をやりとりしているのも、今回初めて気付いた。

映画の冒頭に写楽の描いた宮城野の絵が出る。金曜日は何も気付かなかったが、月曜に見たときは、最初は絵に色がなくて、その後、一色ずつ加わっていくのに気付いた。 土曜日にサントリー美術館の「その名は蔦谷重三郎」展で、「金貸石部金吉」の絵に色を一つずつ刷り足していったのを順番に並べた展示を見たからである。映画で後に出てくる絵草紙屋の店先も、サントリー美術館の展示の一つとして作ってあった店に似ていた。矢太郎が絵を描いている後ろに、写楽の絵が木製のクリップで止めて吊るしてあるが、展示の店の中にも同じように浮世絵が飾ってあった。

私がこの映画を最初に蓼科まで見に行ったのは、片岡愛之助が出るからである。ファンとしては、愛之助が存分に見られて非常に満足だった。山崎監督は、今回の試写後のトークの中で、当時の絵師は歌舞伎について詳しかったに違いないので、矢太郎の役は絶対歌舞伎役者に頼もうと決めていた、と言った。愛之助に注目したのは「新撰組」に出たときで、ときどき涼しい目をするのが良いそうだ。 「涼しい目」というのは、宮城野の話を聞いて「それもまた・・・・か」と言ったときの冷たい目のことだろうか。

愛之助は歌舞伎役者なので、着物の着方はもちろん、写楽に酒を注ぐときの動作など、時代劇の立ち居振る舞いが身に付いている。ただ、そういう点を差し引いて考えると、矢太郎という役を十分に表現できているのかどうか、私にはわからない。

他の共演者は、みんな素晴らしい。毬谷友子、樹木希林、國村隼は、初めて見たときからずっと、役柄にぴったりでうまいと思っているが、おかよ役の佐津川愛美は、前回まではただ若い子の瑞々しさを感じるだけだった。今回見て、「臭くて、みだらなお部屋」という台詞に代表されるような、若い女の子の固さと残酷さがよく出ていると思った。

上映時間113分のうち、ここは見たくないとか、この辺はだれるから飛ばしたいとかいうところはないが、何度か見た結果、宮城野役の毬谷友子が女義太夫の演奏で座敷で上半身だけの踊りを見せるのは、なくても良いのではないかという気持ちが固まった。毬谷の見せ場なのにもかかわらずスタンダード版でカットしてるということは、毬谷もあれは気に入ってないのではないか? 女義太夫は良い。毬谷の部分だけ、浮いている。あと、矢太郎が、吊るしてある写楽の絵に向かって歌舞伎の見得のような格好をするのも、好きではない。この映画に使われている歌舞伎的要素、例えば黒衣や音楽は良い。特に、黒衣が襖の向こうの陰から三味線を渡すところは大好きだ。背景の一部が描き割りだったり、紙人形が動いたりするのも、この映画の魅力になっている。しかし、上記の2か所は、登場人物が役そのままで急に別の世界の動きをするので、違和感を覚える。だんまりのシーンは、全員別キャラ化してるから良いのだが。、


両日とも、上映後に、15分くらいのトークがあった。先に出てきた小口えりこさんという美女と、山崎監督とのかけあいが、実に楽しかった。〈ネットで検索したら、小口さんは元ニッポン放送のアナウンサーだそうだ。〉

小口さん「海老蔵さんのことで愛之助さんが話題になっている今、この時に、この上映会があって、やったと思ったんじゃないですか」
監督「やっぱり、そこから入りますか・・・。せこい男ですから、確かに、やったなとは思いますよ」
みたいなノリ。二人は大学時代の同級生だそうだ。

3年前の松竹座で愛之助が海老蔵の代役をやって全幕出演することになったとき、監督は「宮城野」撮影の打ち合わせをするために大阪に行ったのに、愛之助と面会できず、松竹座で観劇しただけで帰ることになった。名刺の裏に「痩せてください」と「左利きの練習をしてください」と書いて番頭さんに渡して来た。 その二つをしっかりやってくれた、と監督は言っていたが、映画の中の愛之助は、そんなに痩せてるようには見えなかった。

映画の中で、毬谷友子の宮城野と、愛之助の矢太郎がキスをするシーンがあるが、これは原作にはない。撮っている現場で毬谷さんがひらめいて、「やっぱりここはキスくらいしないと」と提案し、監督も確かにそうだと思って、そばで聞いていた愛之助はオロオロしていて、この緊張のまま撮ってしまえと、5分後に撮った、という。

出席者から、最初に撮ったシーンはどこかという質問があったが、その答えは忘れてしまった。最後に撮ったのは、矢太郎が仕事場で、終わった絵の名前の上に線を引いていくシーンだそうだ。「左利きにもずいぶん慣れたからやりましょうか」ということで。

この映画を撮影していた時は、愛之助は国立劇場に出ていて、撮影が終わるのが朝の5時ということもあったが、疲れたとか眠いとかは一言も言わなかった。それについて監督はいつも「マツシマヤッ」と思っていた。終わる時間が遅くなった時は寝ないで、そのまま国立劇場に出ていた。食べると眠くなると言って食事もとらなかったが、スタッフが鰻を差し入れたときは、思いっきり食べていた。

監督は何回か愛之助の楽屋に行ったことがある。歌舞伎座の楽屋というのは歴史があって独特の雰囲気があり、パワースポットのようだった。楽屋で正座して待っていると、愛之助は「よ、先生」と言った後、必ず「足をくずしてください」と言ってくれるので、とても助かる。楽屋では、愛之助はバスローブで出てきたりするので、男二人だけだと、ちょっと変な気持になる。

月曜日には、「そ」という文字が袋の表面に書いてある、楽屋見舞いに行くともらえるお土産を見せてくれた。中身はあぶらとり紙だそうだ。今年は桜茶をもらった、と言っていた。