第49回 日本近代文学館 夏の文学教室 文学・「土地」の力2012/07/31 00:48

2012年7月30日 午後1時~4時半 よみうりホール

よみうりホールはそごうの上にあった頃、落語を聞きにきたことがある。今月、いろんなところのホールに行った後だと、ここは古いけれども悪くないホールだと感じた。有楽町のプラットホームから3分くらいで着くし、ロビーもそんなに狭くなく、トイレはホール以外にも下の各階にあるし、下に食堂もあるし、帰りにビックカメラで買い物ができる。

一時間目 日高昭二 「北をめざす人々」

次は伊藤比呂美さん、その次は玉三郎さんなので、私の時間は気楽に、と謙遜。

A3見開きの資料があって、見出しは次の通り。
I <北海道>という土地
II 土地の記憶/歴史の記憶
III 土地と言葉
IV 地政学としての蝦夷
V 土地の力/言葉の力

北海道にはどういう人々が入植したかとか、知らなかったことが多くてなかなか興味深かった。最後に北海道を舞台にした小説の内容の紹介があって面白かった。玉三郎も喜びそうなので、有島武郎の「小作人への決別」の一節を書きとめておく。
「生産の大本となる自然物、即ち空気、水、土の如き類のものは、人間全体で使用すべきものであり・・・個人が私有すべきものではありません」

二時間目 伊藤比呂美 土着のチカラ

この会場は楽屋がせまくて一畳分しかない、着替えはトイレでしなくちゃならない、と言うので、「えーーーっ、玉三郎はどうするのーーーっ」と心配になった。
皆さんの頭を、玉様しか考えられないように持って行くのが私の役目とか言ったが、話の内容はそれとは全く関係なし。最後に「うなぎとなまず」という詩を朗読した。面白い漫談だった。詩人という以外に何の知識もなかったが、板橋で生まれ育ち、前の旦那といっしょにポーランドへ行き、熊本へ行き、またポーランドへ行き、熊本に戻り、離婚して今の旦那と結婚してアメリカに住んでいることがわかった。娘が3人いて、遠距離介護が大変だったが、両親は亡くなった。


三時間目 坂東玉三郎 「泉鏡花の世界」 聞き手 真山仁

玉三郎はグレーのスーツで、ネクタイをしていた。

去年、南座で玉三郎のチャリティ公演があったとき、真山の司会で玉三郎と獅童のトークがあったのだが、私はそれを見ないで帰った。だから真山は初めて。真山によると、フリーライター時代に玉三郎にインタビューしたことがあって、それが縁だそうだ。

玉三郎の話のうち核心部分は正確な記憶がなくて、どうでもいいことを覚えている。「高度成長期に育ったが、自分は囲われていて・・・囲われてといっても変な意味じゃないですよ」とか、「滝の白糸」の水島友と村越欣也に肉体関係があるかどうかについて論争がある、とか。

玉三郎の鏡花との出会いは昭和三十五年。歌右衛門と守田勘弥が「天守物語」をやった。当時9歳か10歳だが、理想だと思った。
形や色に対する好みのようなものは子供のときから変らない。

自分は白熱電球で育った。父が蛍光灯に変えたとき、見えるものの色が違うので「おとうちゃん、元に戻して」と言って、自分がいるところはすべて白熱電球にしてもらった。
蛍光灯は人のオーラを消すという話がある。真山「蛍光灯の下では玉三郎さんのオーラも見えなくなるということですね」玉三郎「オーラがあるかどうか知りませんが、なるべく蛍光灯には近づかないようにしています」

鏡花を最初に演じたのは滝の白糸。

天守物語は昔は不入り狂言と言われた。「天守物語」のテーマは反戦。加藤道夫作の「なよたけ」も。
テーマは、はっきりとではなく描く。
ファンタジーは、人間性の根源に触れるものだから意味がある。根源に触れるために、飛躍した設定になることがある。

「なよたけ」を観たのは9歳。先代團十郎と梅幸がやったのを観て気に入って、当時、フラフープがはやっていて、フラフープを月に見立てて出たり入ったりした。黄色いフラフープが大事だった。

「高野聖」は人間の欲望を描いたもの。

鏡花で好きな作品を1つ挙げてください、という質問に対して2つあげたいと言って、「天守物語」と「日本橋」。

日本橋は人間の煩悩を描いたもの。
いさぎよさを出すために花柳界を借りた。
お孝は、「きょうは気分がいいから、借金を棒にしてあげる」みたいなことを言う。

最後に好きな台詞をと聞かれて、お孝と清葉の話をした。お孝は清葉のことをいけすかない女だと言ったりするが、一方、襦袢を見て「髪が黒くて色が白いからよく似合うね」と言う。そして、それと同じ襦袢を後輩のお千世に買ってやったりする。お孝が死ぬ前、「清葉さん、笛をお持ちかい?」ときいて吹いてもらった。

好きな作品として「天守物語」と並んで「日本橋」を挙げるのは意外な気がしたが、考えてみると、鏡花作品の中では富姫とお孝が玉三郎のあたり役だ。前回の公演は観たし、テレビ放映もされた。お千世役は波野九里子。清葉と同じ襦袢を着たお千世に、「抱いてあげよう」というところがドキリとさせた。12月の再演が楽しみ。