秀山祭 9月大歌舞伎 昼の部2012/09/02 20:24

2012年9月2日 新橋演舞場 午前11時開演 2階2列40番

「寺子屋」

歌昇のときと同じく、幕が開くと涎くり(種之助)が必死に墨をすっている。すかさず「播磨屋!」と声が掛かる。涎くりが「へのへのもへじ」と書いたり、菅秀才が「一日一字おぼえれば~」と言ったりするのはいつもどおりだが、きょうは、出てきた戸浪(芝雀)が悪さをした涎くりを罰として机の上に立たせる。あれ、こんな場面あったかな、と考えていたら、花道から千代(福助)が小太郎を連れて出てきた。そうだ、今月は「寺入り」からやるから段取りが違うのだ、と気づいた。

千代が手土産の菓子箱と、開いた扇の上に置いたお礼の袱紗包みを戸浪に渡す。戸浪は、扇を閉じて返し、袱紗も、包んであったものだけ受け取って、返す。
「アチー、アチー」と騒ぐ涎くり。千代がとりなして、許してもらう。涎くりは、「おばはん、おおきに」と礼を言って、菓子箱の中から菓子を勝手に取り出して食べる。食べている途中で、他の子供に見せびらかしたりする。

小太郎を置いて帰ろうとする千代に、自分もいっしょに行きたいという小太郎の後姿が淋しげで良い。 母と子の別れだ。 千代は一度外に出た後、扇を手にしているのに、戸浪に「扇を中に忘れたかもしれない」と言って探してもらう。その間に小太郎を抱きしめる。扇を広げて顔を隠して花道を引き揚げる。

その後、涎くりは下男が居眠りをしているのを見つけ、顔に墨を塗る。下男が帰ろうとすると、戸口のところで、涎くりが小太郎の真似をして下男をひきとめる。下男は、千代の真似をして、2人で先刻の親子の別れのシーンを再現する。 下男は、扇ではなく「私の天秤棒が中にないか」と言い、涎くりは今度は戸浪の真似をする。種之助が、女形のように手をついてお辞儀をしたりして、芸のあるところを見せる。

寺入りは前に見たことがあるが、こんなシーンがあったのは覚えていない。今月は、涎くりがまだ十代の種之助で、その若者が芸達者なところを見せてくれるのが印象的だ。秀山祭は、今二十歳前後の役者達が次第に成長していく過程を見る公演になるのかもしれない。

外に出た涎くりが「おっしょはんが帰ってきたー」と叫ぶあたりから、いつもと同じになる。

吉右衛門の松王丸は、様式美と現実感のバランスが良い。「笑いましたか」のあたりでは涙をぬぐっている人が多かった。福助は、きょうは寺入りから最後までとても良かった。梅玉の源蔵は端正な中に若君を守る気概が感じられる。小太郎を「よい子じゃ、よい子じゃ」となでるところもうまいと思った。 芝雀の戸浪はしっかりした奥さん。 又五郎の春藤玄蕃ははまり役。

今月は本当は染五郎が松王丸、吉右衛門が源蔵で、さてどんな感じになるのだろうという期待があったが、染五郎がケガで休演のため、王道の配役になった。 その結果、大人は大人で立派に演じ、若者も芸を見せ、レベルの高い寺子屋になった。

「河内山」

今まで何度観ても途中で寝てしまったし、食事の後なので、寝るだろうと思ったが、やはり寝てしまった。

仁左衛門、幸四郎の河内山を観たが、吉右衛門の最後の「ヴァッカメー」が、一番自然に気持ちよく決まったと思う。

米吉の浪路はやっぱり、隼人の浪路より安定感があった。