伝統芸能の今 20122012/09/09 02:32

2012年9月8日 浅草公会堂、9日 狛江エコルマホール 午後3時半開演

去年は当日どうしても仕事が終わらなくて、チケットをムダにした「伝統芸能の今」。 今年は浅草公会堂と、狛江エコルマホールの、どちらも夜の部を観た。 広忠と傳左衛門は出てなくて、パンフレットにメッセージが書いてあるだけだ。

浅草には開場に間にあうように行った。ロビーで愛之助からパンフレットを渡してもらった。隣りではゴールドリボンの募金をしていて、猿之助の横に、きょうは出ない広忠が立って募金していたので、そこに寄付を入れて、横にいた人からストラップをもらった。

狛江ではパンフレットを渡してくれるのが猿之助で、隣りで募金しているのが愛之助だった。「1000円」と書いた紙を表紙につけたパンフレットを持って愛之助の横に立っている傳次郎の脇で、一噌幸弘が笛を吹いていた。袴に、牛の角のような角笛はじめ数本の笛をはさみ、昨日観客を驚かせた2本吹きもやっていた。スカボロー・フェア、オーバーザレインボーその他、思いつくまま吹いている感じ。開演時間が近づいて楽屋に引き揚げるときには「笑点」のテーマまで吹いていた。

「六道の辻」

逸平が書いた「新作狂言劇」だそうだ。とてもわかりやすくて面白かった。

はじめは暗闇で、太鼓の音だけ聞こえる。幕が上がり、舞台が見えるようになると上手で傳次郎が、縦置きした太鼓を打っている。 やがて笛が加わる。一噌幸弘が最初に吹くのはロビーで見た大きな角笛。その後、オカリナみたいなのとリコーダーをいっしよに咥え、左右の手で演奏した。

下手と上手の下の方に赤いライトがつき、ドライアイスの霧が出てきて、この世とあの世の境界である「六道の辻」の雰囲気を出している。

最初に出てきたのは、笏を持った閻魔大王(猿之助)。最近、娑婆の人間どもが利口になって、みんな極楽に行くので、地獄の将来が思いやられる、誰か通りかかったらつかまえて地獄に連れて行こうという。そして、「六道の辻」(「りくどう」も「ろくどう」でも良いらしいが、この狂言の中では「ろくどう」と言っていた。)で、昼寝をしながら誰か通りかかるのを待つ。伸ばした左手の指が綺麗だ。

次に出てきたのは本職の逸平。「平家の公達のなれのはて」というと、後ろの傳次郎がチンと鉦を鳴らす。一の谷の戦に敗れて逃げている途中、陣に金銀を忘れたのを思い出して戻ったら、源氏の侍たちに見つかって殺された。でも「地獄の沙汰も金次第」というから、持ち帰った金銀で閻魔を買収して極楽に行かしてもらおうと思っている。

次に出てきたのは悪源太、源義平役の愛之助。白い着物に紫の袴。薙刀を持って勇ましい。修羅道にいたが、清盛の首をとりたくて来た。逸平を見ると「どこかで見た顔だ」と言う。逸平は扇で顔を隠し、高い声を出してしらばっくれるが、平忠度とばれる。義平は忠度に清盛がいる場所を教えろというが、忠度は来たばかりでわからないと言う。

閻魔が、修羅道にいた義平が何故ここに来られたかと聞くと、「修羅道の警護の鬼をやっつけて来た」という。「近頃の若い鬼は軟弱だ」と嘆く閻魔。

閻魔によると、清盛は晩年信心深くなって坊主になったので、地獄の悪いならわしによって地獄に連れて行くことはできず、極楽にいる。清盛が極楽にいるなら自分も極楽に行きたいという忠度。しかし、閻魔は忠度は坊主ではないので地獄に連れて行けるという。

義平は清盛を討つために極楽に行こうとする。行かさぬぞ、という閻魔を振り切って、下手に走り去る。

忠度は、金銀の入った袋を閻魔に渡して極楽に行かしてくれというが、閻魔は、ここでは、金銀なぞ何の役にも立たない、と叱って、地獄に連れて行く。舞台に残ったのは、金銀の入った袋。 募金と書いた紙を貼った箱を持って後見の段之が出てきて、その袋を箱の中に入れて静々と去る。

オチが効いていた。狂言にはオチはつかないそうだが。三人ともうまく、口やかましい年寄りのような閻魔、俗物の忠度、直情的な義平、とキャラがはっきりしていた。逸平の声は、響きがあって大人っぽくて良い。ちょっと亀三郎を思い出す。愛之助はいつものように身体の動きだけでなく眉と目もよく動いていた。

「座談会」

下手に傳次郎と逸平、上手は猿之助と愛之助。

逸平は浅草公会堂は初めてだそうだ。共演の2人が歌舞伎役者なので、大体を自分が考えたにもかかわらず、アウェー感があるという。
狛江では、歴史的に能と狂言は大名のお抱えで歌舞伎は庶民のものだから、かつては交流がなかったという話題のとき、武智歌舞伎で逸平の祖父とおじが番卒の役で出たら能楽協会から除名されそうになったという話が興味深かった。

歌舞伎ではシンをとると言って真ん中が大事。「どんな役をやってもだんだん真ん中に来ちゃう人がいる」という猿之助。狂言の場合は、四隅をとる。はじの方にいることが多い。傳次郎によると、能狂言の場合は照明が全体に均等に当たっているが、歌舞伎の場合は真ん中が明るくてはじの方には当たってないそうだ。

浅草ではゲストが多く、寄付先の団体の方2人が話をされ、広忠が「ボランティアのお兄さん」と言われて出てきて4人のサイン入りの大鼓の皮を三万円で幕間に売るという話をし、サプライズゲストの上妻宏光も出た。

上妻は、大柄で華やかな人だった。風林火山のテーマを最初に織り込んだ津軽じょんがら節と、オリジナル曲の「紙の舞」を弾いた。津軽三味線で三番叟もいい、前進座には最後に雪が降る三番叟がある、と猿之助が言った。これで立ち回りやったらいいですよ、とも。

狛江では、浅草に出たゲストはいなくて、団体の人が言ったことを猿之助が自分の言葉で伝えていた。

一噌幸弘は、浅草でも狛江でも途中から出てきて少し話して引っ込んだ。
猿之助が、「あの角笛みたいのは何」と聞くと「ゲムスホルン」。「国は?」とたたみかけて聞く猿之助。特定の国ではなく、ヨーロッパ一帯で使われていた楽器らしい。ルネッサンスリコーダーという名前も言っていた。ソプラノとテナーのを使っていて、「アルトもあるといい」と、一噌幸弘が駄洒落を言う。
最高5本まで同時に吹けるそうだ。そのCDもあるという。5本は、真ん中プラス左右に2本ずつで演奏する。真ん中は譜面台でささえる。「譜面台がないとフメンだい」と。
今回は、最初の2回は尺八の藤原道山だった、と傳次郎が言ったら、「しゃくはちじゅうど違う」と、一噌幸弘。

狛江の座談会での話では、一噌幸弘は500本くらい笛を持っているそうだ。きょうは持ってきたのは30本くらい。痩せているので袴に笛をはさんでいると着物が安定するらしい。
自己紹介で、「みんな、身内だから。みうちしゃん」と言って、傳次郎に「袖でそんなこと考えてたんですか」と言われていた。
傳次郎が、小学校の途中までは能楽師になる予定だったが、歌舞伎に行くように親に言われて歌舞伎の囃子方になったというのを聞いて、「親に言われておやっと思った?」。
5本吹きをしている「咲くシャク」というタイトルのCDを紹介。CD屋でもAmazonでも買える。傳次郎が、「お買い上げいただいた金額は、みんな募金にまわしてもらいます。印税収入がなくなる一噌幸弘さんでした」と言ったら、「いんぜぇ」。
私は駄洒落は嫌いなのだが、無理なこじつけでもなく、見事に決まるので感心した。これも天才の一部なのだろうな。

この後、二十分休憩。

「龍神」

後ろに一噌幸弘と傳次郎がいるのは「六道の辻」と同じ。一噌幸弘は、最初は一本の笛を吹いていたが、縦笛2本にリコーダーを1本追加して3本いっしょに吹いたりもしていた。

最初に、拵えをした村人役の逸平が出てきて、龍神が出てくる事情を説明する。話があまり頭に入らなかった。

龍神の猿之助は青い毛で、頭の上に龍のフィギュアを載せている。

傳次郎は、太鼓を打ちながら猿之助の動きをじっと見ていた。うちわ太鼓とか、いろいろな楽器が置いてあって、チャッパというのか、シンバルのようなのをすり合わせるような感じで音を出している時もあった。黒御簾の中では、あんな風にたくさんの楽器で音を出しているのだろう。

振り付けは猿之助だそうだが、連獅子や船弁慶を思い出した。ジャンプするのが好きなのだろうと思った。話がよくわからないので、何をしているところなのか、いまひとつ理解できなかった。最後、船弁慶のようにクルクルまわりながら引っ込む。 あれは花道でやらないと見栄えがしないのではないかと思ったのだが、狛江は舞台が低くて所作台の形が見えたので、下手の後方が、橋掛かりにあたるのだろうと思い至った。能舞台用の演出なのだろう。

一度幕が下り、カーテンコールが一回あった。猿之助が、三方にお辞儀をした。

狛江は舞台が低く、前の方の席からでも演者の足の先まで見えて嬉しかった。2列目の席で前の人がいなかったので、殿様気分だった。