紅蓮のくちづけ2006/10/25 23:08

十月松竹座の「染模様恩愛御書」とのコラボレーションで書かれたパレット文庫の一冊。最初の遠征帰りの新幹線の中では読み終わらず今回の行きの新幹線の中で読み終わった。

芝居も小説も「蔦模様血染御書」を下敷きにしているが、別の話である。結末は小説の方が私の好みに合っている。忠義が愛に優先するより、忠義のために死んだようには見えても実は心中だった、というほうが好きだ。

吉田秋生 「佐助の狐」2006/10/28 23:19

フラワーズ十二月号に吉田秋生の新シリーズ「海街diary」の2作目「佐助の狐」が載っている。

カラー扉の狐の面をつけた男子は「ジュリエットの海」の主人公を思い出させる。

今回の話は一作目より完成度は落ちるがそれでも笑ってしまう。日常性のある話が吉田秋生の持ち味が最も生きる分野なのだと思う。腹違いの妹がサッカー少女らしくて楽しみだ。吉田はサッカーファンで「ミーハーサッカー」に対談もあるのに今までサッカーものは書いていない。間違いがたくさんあったという野球ものは書いているのに。私は好きだったが。

次女がつきあっている朋章が今回は話の重要な部分になっていて、やや「ラヴァーズ・キス」の番外編のようでもあった。一作目を読んだときは「ラヴァーズ・キス」より何年か後かと思っていたが、今回の内容から判断すると、「ラヴァーズ・キス」のほんの少し前、という感じだ。「ラヴァーズ・キス」を読んだとき、朋章のお母さんは若くて美人なんだから息子なんかに執着しないで自分も若い恋人を見つければいいのにと思ったが、今回は母の浮気相手という男が登場したので安心した。

演劇界12月号2006/10/29 20:52

演劇界12月号に十月松竹座の写真と劇評が出ている。

児玉竜一の大阪松竹座「染模様恩愛御書」についての劇評「血達磨供養」は読み応えがあった。「三島由紀夫を引き合いに出すまでもなく切腹嗜好と男色趣味は兄弟同然」という記述があり、堂本正樹の名も出て、最近読んだ「薔薇よ永遠に」を思い出した。今回の舞台の機構についてもいろいろ書いてある。

聞くところによると千秋楽のカーテンコールでは主役二人のキスシーンもあったそうで、初めて歌舞伎を見る人やリピーターが多く、興行的に成功したのは喜ばしい。ただ個人的には事前の期待が大きく初日も含めて4回見た結果、好きな舞台ではあるけれども自分が第一流と評価する舞台ではないと思った。芸術性に感動したかったのに笑いの方に行ってしまって、自分の好みからいうと不満が残った。笑いが多い芝居は好きだ。身替座禅は笑わせるが超一流の芝居だと思う。染模様は違う。

児玉の劇評を読んで、染五郎が演じた友右衛門の役を忠義のために死んだのではなく実は切腹嗜好の男色者で、数馬との愛よりも自分の嗜好を選んだ者にしたほうが面白い作品になるのではないかと思った。友右衛門は、16歳の小姓に一目ぼれして二百石取りの武士の身分を捨てる三十男であり、元々破滅型の人間に見える。それが最後に忠義のためなんかに死ぬより自分の欲望に忠実に死ぬほうが人格が一貫しているではないか。