佐藤しのぶソプラノ・リサイタル ― 2006/11/03 19:44
2006年11月3日 きゅりあん大ホール 14時開演 F43
曲目
第一部
トスティ 魅惑、 アマランタの4つの歌
モーツァルト オペラ「ドン・ジョバンニ」よりドンナ・アンナのアリア
第二部
シューベルト 春の想い、野薔薇、鱒、音楽に寄せて
モーツァルト (ピアノ)デュボールのメヌエットによる9つの変奏曲ニ長調K.573
プッチーニ オペラ「ジャンニ・スキッキ」より「私のいとしいお父さま」
オペラ「トゥーランドット」より「氷のような姫君の心も」
オペラ「蝶々夫人」より ある晴れた日に
(感想)叔母のつきあいで行ったので期待していなかったが良かった。佐藤しのぶは魅力のある声でオペラ歌手としてのドラマ性もあると思う。「アマランタの4つの歌」の歌詞を書いたダンヌンツィオについて三島と親交があったようなことを言ったように記憶しているが、ダンヌンツィオが死んだとき十三歳の三島と親交があったとは考えがたい。ダンヌンツィオの書いた「聖セバスチャンの殉教」の訳はしているが。「親交」は私の記憶違いかもしれない。舞台の両脇に訳の字幕が出るが、「アマランタの4つの歌」の訳が良くない。原文はわからないが詩の良さが伝わってこない。
オペラからの歌についてその歌の歌われる状況を説明してくれてから歌ってくれるのが良かった。オペラそのものを観てみたくなる。
第二部はおなじみの曲が多かったが、あまり知られていない「氷のような姫君の心も」が、訳詩を読む限りオペラらしい情感がある良い歌だと思った。
国立劇場 元禄忠臣蔵 第二部 ― 2006/11/05 18:20
2006年11月5日 国立劇場大劇場 正午開演 1階13列31番
元禄忠臣蔵 第二部
《伏見撞木町》
仮名手本忠臣蔵の七段目のような内蔵助がお茶屋で遊んでいる場面。目隠しをした内蔵助を女たちが「めんないちどり」とはやす。主税役の愛之助は上手から、もう一人の侍をとどめるように「お待ちください」と出てきて、一度引っ込む。そして、もう一度登場したときに内蔵助につかまえられる。元服しているが声は数馬のときと同じくらいの高さ。横顔が見えるシーンも多くて予想より良い役だった。休憩時間にチケットを買い足してしまった。
会話に中に橋本平左衛門という名前が出てきた。平成若衆を思い出して懐かしかった。「橋本平左衛門が曽根崎でおはつと刺し違えて死んだ」と、平成若衆と曽根崎心中をミックスしたような話をしていた。
《御浜御殿綱豊卿》
梅玉の綱豊卿は気合が入っていた。前に観た孝夫の綱豊卿はもちろんすばらしかったが梅玉もとてもよかった。本人が好きな役なのだろうか。
助右衛門役の翫雀とお喜世役の扇雀も、喜世が助右衛門を止める場面が熱演でよかった。あの場面に来るまで翫雀と扇雀が兄弟なのを忘れていた。
《南部坂雪の別れ》
愛之助演じる羽倉斎宮は最後の方の門外の場で出る。藤十郎が相手だと愛之助がチビに見えないところがいい。羽倉斎宮という役のイメージがわからないので演技が良いか悪いかわからないのだが、台詞はよどみなく言っていた。江戸者にしては重いかなとも思ったが、よくわからない。
《伏見撞木町》に千蔵さんが、《御浜御殿綱豊卿》の最初には千寿郎さんが出ていた。《南部坂雪の別れ》には扇乃丞さんが出ていた。チラシによると吉弥さんも出ていたのに気づかなかった。再来週行くときに気をつけて見よう。
新橋演舞場 花形歌舞伎 夜の部 ― 2006/11/08 00:56
2006年11月17日 新橋演舞場 午後4時半開演 2階2列43番
会社を午後半休して一度帰宅し、少しでも昼寝してから行こうと思ったがほんの短時間しか眠れなくて船弁慶の途中で少しうとうとした。
「時今也桔梗旗揚」
要するに信長と光秀の話。信長は春永に、明智は武智になっている。以前、片岡孝夫(のときだったと思う)の光秀を大きく期待して見たが、あまりおもしろくなかった。
光秀役の松緑は踊りがうまいせいだろう、所作のことごとくが綺麗。個人的に顔と発音が気に入らなくてどうしても好きになれないのだが、この人の動きはいつも美しいと思う。
春永役は海老蔵。元々美声なのに基本の声より高い声や低い声を安定してコントロールすることができないようだ。しかし、バカ殿に見えたり顔がふくらんで見えたりしがちなエリマキのような襟の殿様の衣装を着てもゆるがない美貌にあらためて感動。
光秀が花道を引っ込んだとき、終わりだと勘違いして廊下に出てサンドイッチを食べ始めた。後に続いて人が出てこないし中で芝居が続いている気配がするので間違えたと気づいたがそのまま食べ終えた。それでもまだ芝居が続いているようだったので席に戻った。
最後は光秀が浅黄色の裃姿で切腹の用意をしていたが光秀が切腹するはずはないので、介錯人の刀を取り上げるのだろうと予想して見ていた。
光秀の妹の桔梗役の松也が綺麗。身替座禅のときの腰元のような姿で、長身に振袖が映える。玉三郎が若いときは後ろ姿が男に見えた。若くて長身だから、と思っていたが松也はさらに長身なのに後姿も男には見えない。玉三郎のあれは何だったのだろう。
「船弁慶」
4月に醍醐寺薪歌舞伎で見た演目だが、あのときは遠すぎてよく見えなかった。今回は2階で静の足の動きがよく見えた。菊之助の静はすべるように見える動きだった。謡の部分もうまい。最後に知盛の幽霊になって出てくるとこじんまりしているが、静と二役でやることが多いので、それは予定されていることなのだろうか。
義経役は梅枝。立役もけっこういい、というより、立役の台詞をきいてはじめてどの程度の芸なのかわかった。
醍醐寺で愛之助がやった舟長の役は亀蔵。愛之助がやったときは声や化粧からやや滑稽な役、と判断したが、今回はもう少し普通な感じ。舟人の一人で松也が亀蔵のすぐ後ろにいるが、立役だと女形のときよりノッポが目立つ。
「義経千本桜」 四ノ切
猿之助の型で海老蔵が狐忠信をやった。この演目については別に書く。
義経千本桜 川連法眼館 ― 2006/11/11 20:18
「義経千本桜」の川連法眼館、いわゆる四ノ切は猿之助の芸に感服した唯一の演目だ。この他にもフタゴ隅田川や小栗判官は好きだし猿之助歌舞伎の最後に見せてくれる立ち回りや宙乗りを楽しんできた。それでも立ち回りや宙乗りは猿之助の芸というより周りで働いてくれる人がいて猿之助がその中心で拍手を浴びているだけだとも言えた。けれども四ノ切だけは狐の姿で欄干の上を歩いたり、狐の衣装をつけた姿が本当に狐がしょんぼりしていたり物思いにふけっていたりするように見えて猿之助の芸そのものに感動した。
今月、演舞場で海老蔵は猿之助の指導で同演目の狐忠信を演じている。幕が開いたとき、欄間の真ん中を凝視。正方形の切れ目がかすかに見てとれたので、大好きな蘭間抜けがあるぞ、と嬉しかった。最初に予備知識なく欄間抜けを見たときは突然に欄間から抜けてきた狐があっという間に舞台に正座してこちらを見ているのに唖然とした。あんまりびっくりするとじわも拍手も起きないと知った。
海老蔵の狐忠信は全体的な印象としては「猿之助の下手な物まね」。ただ、私は海老蔵ファンなので、下手でも真面目さや一生懸命さが伝わってくる彼の舞台を見ると感動してしまう。
まだ狐の姿になる前、台詞がはじまった途端に猿之助写しであることがわかる。狐の台詞は特殊なしゃべり方で、猿之助の舞台でも非常に印象的だった。海老蔵もこれをまねているが、他の演目を見ても自分の声をコントロールできていない彼には、狐の台詞は高等すぎるテクニックだろう。
狐が階段から急に出てくるとき、猿之助の舞台をはじめに1階で見たときは階段の上に今までいなかった狐が急にすわっていてびっくりした。3階から見たときは狐が出てくる前に階段の一部が開くのが見えたので仕掛けがわかった。今回の海老蔵は身体が大きいせいか、2階席から見ていた私には階段全体が動いて大きなものが飛び出してきたように見えた。
狐の衣装を着た姿は狐というよりは白いむく犬で、階段の手すりにじゃれついたりする姿が不必要にかわいい。猿之助は階段を一段ずつ降りる姿が狐の足つきに見えたりしたが海老蔵はそうは見えなかった。動き方もあるが、衣装も少し工夫がいるのではないかと思う。欄間抜けも身体が大きいせいか舞台正面に座るまでに猿之助よりもやや時間がかかる。
ただ、運動能力はすごくて、若くて元気のいい狐だった。
地下鉄(メトロ)に乗って ― 2006/11/12 16:15
久しぶりに何の予定もない土日だったので友達にもらったチケットを持って新宿ジョイシネマで「地下鉄(メトロ)に乗って」を見た。今回は「出口のない海」を見た建物とは違う建物の3階。ネット上のレビューの評価は悪かったのに客席は一番前の方以外は埋まっていた。
「出口のない海」を見たときに気づいたのだが本編が始まる前の観客への注意の英文の内容、最後に"Thank you for your corporation." と出るがcorporation は cooperation の間違いだろう。まあ発音は似てるけどな。
映画の内容はネット上の評価通りくだらなかった。たぶん原作そのものがつまらないのだろう。話がありきたりで、リアリズムでもファンタジーでもない。「異人たちとの夏」を思い出したが、「異人たちとの夏」は名画だった。
地下鉄の新中野の駅と丸の内線が頻繁に出てくる。丸の内線はよく利用するので、あの永田町の駅から赤坂見附に乗り換える通路を歩いているのかな、とか考えながら見た。
新中野の駅前は青梅街道なので、たとえ昭和39年と言えども映画の中の町並みは裏通りの雰囲気すぎるのではないかとか、当時の男の子なら「やまのて線」ではなく「やまて線」と言うのではないか、とちょっとつっこみを入れたくなる。 東京オリンピック記念のピースの箱のデザインがあったと初めて知った。父は私が小さい頃はピースを吸っていたが、あの箱は覚えていない。
昭和39年の世界でゆっくり郷愁にひたる暇もなく終戦直後、戦争中へとタイムスリップ。当時でも銀座線は走っていたのだと考えると感慨深い。しかし、地下鉄から降りた出征兵士に向かって電車の中で一人で万歳するようなことはなかっただろう。、この頃の話になると作者も生まれてないので時代考証以前にありえないようなことを書いているような気がした。
能と舞踊の饗宴 ― 2006/11/15 00:46
2006年11月14日 観世能楽堂 「能と舞踊の饗宴」 午後1時半開演 い20番
午後半休して観世能楽堂に「能と舞踊の饗宴」を見に行った。 観世能楽堂に行ったのははじめて。東急Bunkamuraには何度も行っているのに、あのすぐ裏にあんなものがあるとは知らなかった。
本当はこの後の回の玉三郎が踊る「葵ノ上」と能「葵上」が見たかったのだがこの公演を知ったときにはチケットが売り切れていた。知ってたとしたら今日見たほうは見なかったろう。両方見ると四万円になるので、さすがに苦しい。
観客の平均年齢は60を超えていた。ひょっとして玉三郎のファンの中では私って若手?と嬉しくなったが、考えてみれば役者より年下のファンは若手の部類だろう。
地唄 「雪」
玉三郎を見るのは7月以来。脇正面の2列目だったので、玉三郎は10m以内にいる。久しぶりに顔がはっきり見える席で見られて嬉しかった。 横の通路から出てきて舞台に出、正面を向いているとき横顔が見えたが、早くこちらを向いてほしかった。
能 「羽衣」
シテ 観世清和 ツレ 森常好
瓜生山で見た「松廼羽衣(まつのはごろも)」 の能バージョン。やはり最初に伯竜(;はくりょう)が出る。今回の伯竜は声量も体格もオペラ歌手のようだった。
笛の音はいい、鼓の音は魅力的だ、衣装が綺麗だ、シテの扇を握っている手はごつい男の手なのに顔の前にかざしている手は華奢な女の手に見えるのは流石、と部分的には感心しながらも途中うとうとした。能を見るのは2回目だがまだはまれない。瓜生山のトークショーで亀治郎が「羽衣は天女が一人で踊り狂って終わっちゃう」みたいなことを言っていたが、本当だった。前半が歌舞伎の「松廼羽衣(まつのはごろも)」 で、後半が能の羽衣だったら比較するおもしろさがあって能の方も飽きずに見られたのにと思う。
国立劇場 元禄忠臣蔵 第二部 2回目 ― 2006/11/19 18:05
2006年11月19日 国立劇場 正午開演 1階16列16番
元禄忠臣蔵 第二部を観劇の2回目。きょうの第一目標は2段セットの40周年記念弁当を食べること。早く売り切れると聞いたので、いつもは遅刻気味に行くのにきょうはやや早めに着き、すぐにお弁当を買った。
2段セットなので朝食は少なめにしたが、予想より小さめだった。味はまあまあ。おかずの中で何がまずいというのはないが特においしいものもない。おにぎり弁当と同じで、五目寿司のおかずとしては濃い味のものが多すぎると思う。何種類もの食材が使ってあって多品目食べられる点はいい。
御浜御殿の梅玉はきょうも良かった。今まで何回も見てきたがこんなに良い役者だと思ったのははじめてだ。それも、孝夫がやった役を別の役者がやってこんなにいいと思うなんて信じられない。プログラムの「出演者のことば」を見ると「綱豊卿は、気持ちのいいすてきなお役で、好きですね」と言っている。やっぱりよっぽど好きで気が入ってるんだろうなあ。
翫雀の助右衛門は前回は熱演だと感じたのだが今回は騒がしさを感じた。大声で吠え立てるわりに情熱が伝わってこないような。見た目ではニンのように感じたのだが、この人は熱血漢の役より包容力のあるお殿様のような役が性格に合うのかもしれない。
愛之助の主税の顔は数馬から次第に孝夫に近づいているような気がした。顔はあんまりよく見えないので断言はできないのだが。プロク゜ラムに載っている写真は数馬役をやっているときにとったのか、とてもやさしい女性的な顔で写っている。主税の役は若さが目立って儲け役だ。あの役者だれだろう、と配役を確かめるような役。内蔵助の前に手をついてる格好はどう見ても犬だ。特に手をついて見上げているときは餌をもらうのを待っている犬のようだ。
羽蔵斎宮の台詞がききとりにくく感じるときがあった。普通の声より低い声で速いテンポで台詞を言うのが負担になって発音が不明確になっているのかもしれない。あの役は愛之助の実年齢に近い役ではないのだろうか。六月にやった、すぐ殺されてしまった役のときのような愛之助の一番出しやすい声でかまわないのではないかと思うのだが。
前回気づかなかった吉弥さんがわかった。「南部坂雪の別れ」に赤地の着物の腰元役で出ていた。
プログラムを見ると千志郎さんも出ているが、確認できなかった。
新橋演舞場 花形歌舞伎 昼の部 ― 2006/11/20 20:30
2006年11月20日 新橋演舞場 午前11時開演 1階20列37番
1階の一番後ろだが人の頭が気にならない良い席だった。
「番町皿屋敷」
松緑は芝居が下手なのではないか? 舌足らずだが声も口跡も悪くないのに心が入ってないように感じる。もっと下手でも海老蔵で見たい。青山播磨は若く純粋なバカで、恋人菊が自分の心を疑ったことに傷つき家宝の皿をすべて割り、制止する奴のいうことも聞かず菊を殺し、槍をもって喧嘩に行く。海老蔵なら許せる。
菊役の芝雀は普通。同輩の松也がきれい。松也は玉三郎のように顔で勝負できるわけではないので、衣装が地味な町娘のときはあまり私の目につかなかったのだろう。振袖をきると映える。ロビーで後援会の入会要綱をもらってきた。筋書き見たら私と誕生日が同じだし、入るかもしれない。
「勧進帳」
海老蔵の弁慶を見るのは浅草、松竹座に続いて3度目。 海老蔵はいいが、何度も目を剥きすぎ。安売りするな。それでも、もうこの人以外の弁慶は見たくない。仁左衛門がやるというなら別だが。弁慶は力の象徴で、海老蔵には若さと力を感じる。海老蔵の弁慶が登場すると近くのおばさん達が「いい男、いい男」とささやきあう。こういう男がいなくては歌舞伎に客は来ない。
富樫の菊之助は子供っぽすぎ。富樫での短所は弁天小僧の長所と表裏。
松竹座で仁左衛門が拍手をもらっていた見せ場で、2回とも拍手をもらえなかった。弁慶が勧進帳を読み上げているときに富樫がじりじりと近づいていって弁慶が気づき、勧進帳を隠すところ、緊張が高まるところなのに少し笑いが起きていた。
六方に入る前、海老蔵に「十一代目そっくり」と掛け声がかかった。
「弁天娘女男白浪」
菊之助の弁天小僧を見て、実際の弁天小僧はこんな感じだったのだろうとはじめて思った。今まで見たのは菊五郎、勘三郎、新之助時代の海老蔵だが、みんな元にもどればおっさんか男っぽい男だった。菊之助は男に戻ってもアンドロギュノス。足や胸が見えると見てはいけないものを見ているような気がする。
五人男が勢ぞろいすると他の四人が長身。松也は一番長身だが女っぽい。しかし台詞はしっかり言えていて、年齢を考えるとうまいとしか思えない。
三越カルチャーサロン 歌舞伎おもしろ講座 2回目 ― 2006/11/21 01:00
2006年11月20日 三越カルチャーサロンにて 午後5時半~6時半
演舞場から日本橋の三越本店に移動。5時少し前に三越新館9階の三越カルチャーサロンの受付に行った。前回行かなかったのでまだ受講用のカードをもらっていなかった。受付で名前を言うと三回分の日にちを書いたカードをくれて、次もこれをもってきてくださいと言われた。
男の人が、講座の行われる部屋に案内してくれた。横が広くて奥行きがない部屋だった。
左にあるホワイトボートに「片岡愛之助が語る歌舞伎にかける想い」と書いてあった。
会場前方には金屏風があり、その前にテーブルがあった。開始時間が近づいて係りの人が水差しを二つ持ってきたので、インタビュー形式だろうと思った。
開始予定時間の5時半に、私がこの講座の支払いに行ったときに受け付けてくれた女性が前に出て挨拶し、写真と録音はきょうはダメですと言った。
愛之助と、元NHKアナウンサーの後藤美代子さんが入ってきた。愛之助はスーツ姿。後藤美代子さんが「上方歌舞伎の明日を担う方のお一人」と紹介した。トップランナーのことなどをあげ、非常に要領の良いわかりやすいしゃべりだ、と持ち上げた。
後藤 まだお若いんですよね。
愛之助 34。 34が若くないというと問題発言になるので。
後藤 でもお若いという感じがしますね。
愛之助 ありがとうございます。
こんな風に始まった。
18日に国立劇場であった講座の内容を紹介したブログを読むと、きょうの話と重複するところがあるので、重複部分は省き、私がへエーと思ったところや愛之助の話に対する感想などを書く。
■ 主税の鬘をつけて見たらどっから見ても子供じゃない。数馬は完全に真っ白に塗り時代考証などもめちゃめちゃなので案外平気だったが忠臣蔵はリアルだから照れくさい。
■ 数馬も主税も高い声だが、高さは少し違う。(へえー、きづかなかった)役にはそれぞれ魂があるからそれぞれ別に演じる。羽倉斎宮はこういう人だとお客様に感じてもらえれば幸い。
(ちょっと話がわきにそれて本筋の質問を忘れてしまった、という後藤さんに愛之助が「思い出したら聞いてください」と言う)
■後藤さんの「上方の言葉を使えるのが強み」という質問に対し、「それくらいしかない。逆に江戸のものが苦手」
■十月みたいな線の細い役は久々。前髪つけるのが恥ずかしかった。(十月にいらっしゃった方は、という後藤さんの質問に多数挙手)
■ 後藤さんの「南座、松竹座でやるときはふるさとに帰ってきたような気がするか」という質問に「はい。」「はじめは東京に来ると大都会に来ちゃったような感じだった。今はどこへ行ってもしあわせ。サラリーマンだったら飽きると思う。皆さん、飽きません? ホテル暮らしもなれてくる。トランクとダンボール三つか四つで移動。パッキングもうまい」。
後藤 年中全国ツアー?
愛之助 そんな感じ
■ 伊勢音頭は、最後「めでたいのか?」と思う。それが歌舞伎の不思議なところ。福岡貢の役はとても難しくてそれだけは勘弁してほしいと松竹に言いたいほどだった。 貢の役は忠兵衛の役よりもやっていて気持ちいい。 4月はいろいろ事情があって浅黄の衣装でできなかったが次回は浅黄でやりたい。
■ 忠兵衛の役は発散するところがなくてストレスがたまる。浅草でやったとき良かったのは八右衛門と両方の役をやり、八右衛門の方で発散できたから。八右衛門の方が正論を言っている。型の違うのをいっしょにやるのは難しい。
■ 油地獄のときは、あまり派手にころぶなと(ドリフじゃないんだから、と愛之助は言っていたが仁左衛門さんは言ってないと思う)言われた。 花道で一旦止まって、また走ってひっこむのがすごくしんどい。(私が仁左衛門さんの与兵衛ですごい、と思い脳裏に刻み込まれているイメージは、この、花道で一度止まっているところ)
■ 平成若衆で、油地獄とウエストサイドストーリーをミックスしたようなのをやったことがある。与兵衛が逃げた後の話は普通やらないが、その後どうなったか疑問に思う人はいる。平成若衆ではその後もやった。油がお客さんにとんだりするといけないので一度真っ裸になってもう一度水で濡らした浴衣に着替えた。それで戸板倒しもやった。
■ 義賢最期の仏倒れで一度ひどく鼻と口をぶつけたことがある。歯はかけていなかった。鼻はあるか、と触ったがしびれていて感じない。鼻血はなかったが鼻の下を切った。その次の日はちょっと怖かった。これほど、シンが身体を張る演目はない。蘭平もはしごは上るがあとは下で支えてもらって見得を切るだけ。
■ 「戸板倒しは、大丈夫なんじゃないかと感じる」という後藤さんの言葉に対し「あの上に乗ってみてください。倒れるときはひゅーーーーーーーーーーーー、これくらい、滞空時間が長い。お客さんのキャーという声で怖くなる」
■ 定九郎は倒れてからいろいろしなくてはならない。猪が走っている間にやるのだが、東京は一周まわるのに対し上方は猪がそのまま引っ込むので時間が短い。どうしてかと我当伯父に聞いたら「猪は猪突猛進やろ」と言った。
■ 定九郎で傘ひろげたら折れたことがある。
■ 最後は質問コーナー
・十三代目最後の顔見世を見た人が、そのときの思い出、エピソードなどを質問
愛之助 「きょうは休まれてしまうか、と毎日考えているような舞台でした。 自分が手をひいてはいたけれども、目が見えないで舞台なんか 自分が歩けると思えない。」
・女形が見たい 梅川は? 夕顔が一番キレイだった。
愛之助 「梅川は封印したい。できが悪かった。」「夕顔といえば源氏物語の 寂聴さんに従姉の出ていた芝居を見に行ったときにお会いした。覚えていてくれて独演会だった。」
・勉強会について 関ノ扉などどうか。 亀治郎さん、染五郎さんとトリプルキャストで。
愛之助 「関ノ扉はやっても、皆さん来てくれますか? 来てくださればやりますけど。上下やるとけっこう大変。 やったことあるんですよ」
・すし屋の権太は自分がやってもらいたいと思っていた三つの役のうちの一つなので嬉しい。
愛之助 ちなみにあとの二つは?
質問者 もうやられましたが~(忘れた)と、富樫
(富樫でうなづく人多し)
愛之助 弁慶は誰で? じゃあ、染五郎さんに頼んでおきましょうか。お父さんも何回もやってらっしゃるようなので。
・その他、質問ではないが秀太郎さんの大ファン、孝玉時代からのファンだが最近顔をすると仁左衛門さんに似てきた、など。
(感想)愛之助さんは、こうやって、ああやって、こうなって、と舞台のことを身振り手振りを交えて語ることが多い。たぶんご自身には舞台の様子が見えているんだろうが、素人の私にはわからないところもあった。
11月歌舞伎座 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部 ― 2006/11/23 23:31
2006年11月23日 歌舞伎座 昼の部 午前11時開演 1階9列6番
「伽羅先代萩」
・花水橋
頼兼役は福助。花道に相撲取り体型の人が出てきたら「万屋!」と掛け声。万屋でこの体型は歌昇しかいない。
福助の謡をもう少し長く聞きたかった。
・竹の間
ここが一番観たかった。菊五郎演じる政岡達が花道から出てきたとき千松があまりに幼くて、こんな小さな子が死ぬのかと涙が出そうになった。この千松は台詞もいかにもお腹がすいていそうな声で、政岡には泣かされなかったがこの子で泣いた。鶴千代の役は女の子で、夏に亀治郎の会で奥州安達原のお君の役をやったときに感心した下田澪夏。この子は夏には亀治郎相手に芝居して、きょうは仁左衛門相手に芝居してるんだから、すごい。愛之助は六年生のときに鶴千代役やったんだと考えながら観た。花道で歌右衛門の膝に乗せてもらったんだろうか。
お待ちかねの八汐役の仁左衛門が花道から登場。花道近くの席で顔を見られて嬉しかったが、きょうの席だったらやはり仁木弾正の役が見たかった。はじめて「伽羅先代萩」を観たときは菊五郎の政岡で孝夫は八汐と仁木弾正の二役だった。きょうは細川勝元との二役。八汐役はいつも通り怖い顔で、意地悪さがおもしろい。最初に出てきたときの打掛はグレーの地色。長身には討ちかけが映える。玉三郎の天守物語をちらっと思い出す。考えてみると仁左衛門みたいないい男が女装すること、そして女の着物もちゃんと着て女のように振舞えることは、驚異的なことだ。歌舞伎の不思議。
沖の井役の三津五郎がうまいせいか、八汐をからかってひっこむあたりがおもしろい。
(ここで三十分休憩)
・御殿
菊五郎の政岡には泣かなかった。梅幸の政岡では泣いたんだけど。玉三郎みたいに再婚の口がいくらでもありそうな政岡で泣けないのはわかるが、どうして菊五郎で泣けないのか不思議。不細工でよれよれの政岡の方があわれが出るのだろうか。
田之助の演じる栄御前が登場するときに迎えるため仁左衛門達が上手から登場する、前とは違う打掛。ここで毒の菓子を出し、それを食べた千松をなぶり殺しにし、証拠の毒菓子を袂に入れてひっこむ。この幕の最後に殺される。
・床下
荒獅子男之助は富十郎。男之助にやっつけられた鼠が花道のすっぽんに飛び込み、煙が出て、出てきたのは仁木弾正役の団十郎。前後の黒衣が持つろうそくが前後左右にゆれ、団十郎が花道をゆっくりと歩く。仁左衛門で観たことはあるが、もう少し花道から遠い席で観たような気がする。
・対決
段四郎の渡辺外記左衛門側の人間と弾正側の人間が山名宗全の下の左右に並ぶ。弾正側が正しいと認められたところで細川勝元役の仁左衛門が登場。長い台詞の見事さに拍手が起きる。
・刃傷
渡辺外記左衛門と仁木弾正が立ち回りをし、外記左衛門が殺されそうになるが味方の助けで仁木を討つ。しかし深手を負っている外記左衛門は最後に登場した細川勝元に「めでたいのう」と言われながら死ぬ。
仁左衛門はけっこうでづっぱりだった。時折咳をしていたのでまた風邪かもしれない。
「源太」 「願人坊主」
三津五郎の舞踊。三津五郎のこしらえた顔はどことなく朝岡雪路に似ている。
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