天日坊2012/07/05 00:05

2012年7月4日 シアターコクーン 午後1時開演 2階D列3番

「天日坊」

通路際で、前の列と重ならないので舞台がよく見えた。2階と言っても、角度的には歌舞伎座や演舞場の3階と同じだ。最後の立ち回りは舞台全体が見て取れて綺麗だった。

獅童が見たいからチケットを買った。その獅童がおかしなところも、ドスをきかせるところも十分で、凄くかっこよかったから大満足。歌舞伎で大きな役をたくさんやって自信がついたのだろうか。あるいは元々、時代劇にぴったりな人だからか。歌舞伎の古典だと歌舞伎味が薄いのに、普通の歌舞伎とは違うこんな芝居だと、誰よりも歌舞伎役者風なのが不思議。

七之助は、突然上手から現れるのが面白い。声に魅力がある。新悟もずいぶん色っぽくなった。最初に観たのがコクーンの四谷怪談のときで、ほんの数年前なのに、今や正統派の良い役者だ。こういう歌舞伎役者に「信じられない」みたいな現代の台詞を言わせるのが面白いのかも。亀蔵も、老婆と赤星の両方が面白かった。巳之助も良かった。

歌舞伎役者以外も出ている。私が知っているのは近藤公園だけだが。

きょうは会社を半休して行ったので、昼食後の初めの方は眠くなり、けっこう眠ってしまった。だから、話を理解していないのかもしれないが、歌舞伎とか喜劇とかの味付けなくサスペンスとして観たい芝居だと思った。サスペンスとしては好みの話。そこに「僕って誰」みたいなテーマ(?)が絡むと、イマイチよくわからない。特に、木曾義仲の息子の義高であることの、本人の中での位置づけがよく理解できなかった。

お客さんはよく笑っていたが、いちいち笑うのが面倒と感じる人間なので、笑ったのは、法策が百両持っていると知った赤星が急に態度を変えて「泊まってけ」と言ったときだけ。

最初の方で、背後に大きな猫の顔が現れたときは、「ニャオンの恐怖」という言葉が頭に浮かんだ。わかる人にしかわからないが。

最後の立ち回りは綺麗だった。勘九郎ももちろん良いが、七之助は衣装の色取りが相手方の黒い衣装との組み合わせで引き立って綺麗だった。獅童もやっぱり見た目はかっこいい。

休憩時間にロビーに行ったら演出の串田和美がいた。ゆうべテレビでで見た「はつ恋」のお父さんの演技がまだ頭の中で新鮮な記憶だったので感動した。串田はカーテンコールのとき、舞台から呼ばれて通路から舞台に歩いて行った。

国立劇場歌舞伎鑑賞教室とアフタートーク2012/07/05 16:33

2012年7月5日 国立劇場大劇場 午前11時開演 2階1列

よみうりカルチャーの観劇入門講座に申し込んで、チケットは入り口ではがきと引き換えた。開演の15分くらい前で良席は期待してなかったが、ラッキーなことに2階1列目だった。上から見ると、1階の最前列は一般のお客さんがいたが、その後ろは中学か高校の生徒達で、開演前は若い声が轟いていた。

解説「歌舞伎のみかた」

花道のフットライトがついて、宗之助が登場。七三で見得。その後、自分の名前を言って、花道、上手、下手、定式幕、黒御簾などの基本的なことを説明。宗之助が黒御簾の方を向いているときに後ろの幕から国立劇場のキャラのくろごちゃんが出てきて、「そうのすけさんっ」と呼びかける。宗之助が、歌舞伎では黒は見えないという約束になっていると言い、黒衣の仕事を説明。裃後見というのがあると言うと、愛一郎が登場。差し金の蝶をくろごちゃんのまわりに飛ばす。くろごちゃんが、自分でも蝶を動かしてみたいと言って、愛一郎が「練習しようか」と受け、上手にはける。

その後、女形の拵えを実際に見せてくれた。モデルはりき弥。「片岡りき弥でございます」と言い、お化粧を開始。舞台のスクリーンにりき弥の顔が映ると、客席からおーーーっという声が。最初にびんつけ油を塗り、次に刷毛で白粉を大胆に塗って顔を真っ白にした後、スポンジで叩いて水分を取り、またスポンジで粉白粉をはたく。瞼にピンクをぼかしをいれ、目張りをいれる。顔を真っ白に塗ったので、後でまつげを拭くのが面白かった。眉をかくときが一番緊張するそうだが、そう言われる前に客席が息を飲むように静まりかえった。りき弥は自分の眉を剃っている。眉をそってない人は最初にびんつけ油で固めるのだそうだ。唇に紅をさすのは指で、わりと大雑把な感じ。

化粧が済んで舞台の真ん中に出てきた。男のままでも優男なので、そんなに変ってないと私は思う。

松竹衣装の人が出てきて、腰元の衣装を着せた。でも、りき弥はただ立ってるわけではなく、自分でひもをしばったり、前の方で自分ができることはしていた。宗之助が横で、「役柄によって襟の抜き方が違うんですよね。抜くというのは~」と説明。帯の後ろのところは、すでに形ができていて、差し込むようになっている。蝶結びの大きいのみたいなのは、宗之助が顔の前で持つとかなり大きい。

その後は、床山の人が出てきて、鬘をかぶせた。

宗之助が「これで完成ですか」というと、りき弥は「あとは手だけです」という。手の白粉は最後になるわけだ。白粉を塗るりき弥の袖を、後ろで宗之助がひっぱって持っていたのが、個人的に萌えシーンだった。「白粉はどうやって落とすんですか」「普通にクレンジングと石鹸で落ちます」みたいな会話をしていた。

舞台の真ん中に歩いていくりき弥は、見た目は腰元だが、歩き方はおにいさん。私はそれも好きだが、歌舞伎はそれでは困るので、宗之助が女形の身のこなしを説明。上半身は、両方の肩甲骨をくっつけて、肩を落とす。歩くときは膝と膝をくっつけ、内股に。女形の修行のはじめのときは股の間に紙をはさんで、それが落ちないように歩いた、という話をしたが実演はしなかった。

最後は、りき弥が腰元若菜になって、「毛抜」の家の事情を説明し宗之助に助けを請うた。2人がはけた後はスクリーンで、漫画のキャラのような絵で「毛抜」の登場人物や事件を簡単に説明。スクリーンの中の宗之助の言葉で、解説が終了した。


「毛抜」

最初は数馬(廣太郎)と秀太郎(高麗蔵)の喧嘩のシーン。廣太郎はまだ声が若い。高麗蔵は小柄だが綺麗で若衆にぴったり。2人の間に割って入るのが、腰元若菜のりき弥。りき弥、今月はすごく目立つ良い役をもらっている。

錦の前は廣松。初めて女形を見たが、思ったより台詞がうまかった。芝雀に教わるのだろうか。

愛之助の粂寺弾正が花道から登場。顔が衣装にもぐり気味だが、そういう衣装なのだろうか。

秀太郎に馬の指南をするところ、腰元巻絹に言い寄るところは、役者もよくて、面白かった。

弾正がいろいろ考えているところで、愛一郎と千蔵の裃後見が、それぞれ差し金につけた小柄と毛抜を動かした。

市蔵の万兵衛も良かった。

コンパスを持って天井から降りてくる忍びの者は千志郎。

愛之助の粂寺弾正は、きびきび、すっきりしていて、良かった。「これは」とか「参上いたしてゴザル」等、随所に、團十郎の台詞まわしを感じた。團十郎のようにとぼけた可愛さはない。しかし愛之助には台詞のうまさという武器がある。毛抜は、愛之助の美点を発揮できる作品なのだと思う。一番出しやすい高さの声をずっと出していて、ききとりやすい歯切れの良い台詞。所作も正確にこなしている。愛之助のつやのある声が、歌舞伎十八番の華やかさを出すのに役立っている。それに、教わったばっかりで、まだどこも崩れていない端正さがあるような気がする。本人も、かなり満足のいくできなのではないだろうか。

弾正の引っ込みのとき、七三で立ち止まって、刀を両手で持ち上げる。きょうはそれを正面から見ることができた。

この演目を観て歌舞伎にはまるとは思わないのだが、明るくて、わかりやすく、鑑賞教室向きの演目だと思った。

「アフタートーク」

終演後30分、アフタートークをきくために伝統芸能情報館の3階に行った。椅子席で、すでに数十人いたので驚いた。
愛之助が来たのは1時40分くらいで、トークは30分。進行役は河村常雄さん。

愛之助が来る前に、河村さんが、「皆さん何か愛之助さんに質問したいことはありますか。最近話題になっている結婚のことは私が聞きますから、それ以外で」と聞いた。永楽館の歌舞伎をこれからも続けるのか聞きたい、という人がいた。

愛之助は薄い藤色の羽織袴だった。トークは、ざっと次のような感じ。

・「毛抜」は松竹が決めた。自分の選択肢になかった。片岡家の人間は一人も弾正をやってない。自分はよく知らない演目で、皆さんの方がよくご存知じゃないかと思うくらい。松竹座で、獅童君が弾正をやったとき、春道の役だった。今月は友右衛門さんがやってるお父さんの役。春風ならともかくなぜ春道? 春道は最初と最後しか出てこない。裏で聞いてると、獅童君がずっとしゃべってて台詞が多くて大変そうだから聞いたら「大変だよ。一人でしゃべってて」と言ったので、やりたくない役だと思った。今回は「ついに来てしまったか」と思った。でも今月の国立は一日二回公演なので、二か月分勉強できるのは良い。
・何もわからないときにポスターをとった。ああいう格好してください、こういう格好してください、と言われながら。成田屋さんに挨拶に行ったのはその後。
・毛抜は役が多いのに、今月はいろんなところで歌舞伎をやっていて、残っている役者が少ない。お弟子さん達でやるしかないかと思った。そんな話を父にしたら「僕出てもいいよ?」と言った。自分が7月の松竹座に出ないことも考えにくかったのに、父の方はもっと。しかし、出ることになった。
・河村「台詞まわしが團十郎さんによく似てる」愛之助「普通に台詞言ってると歌舞伎十八番にならない」
河村「団十郎さんに一番強く言われたことは?」 愛之助「(声色風に)ひょうきんにやってください」 弾正の登場シーンも、愉快な感じで、常にニコニコしているように。 秀太郎に言い寄るところは「できるだけいやらしくやってください」と。
・河村「本当の秀太郎さんのやる腰元に言い寄るシーンは、やりにくいでしょ?」愛之助「いえ、そんなことないですよ。びびびびびー、のところで、客席の学生さんが、可愛いと言ってるのが聞こえた。芸の力」
・河村「最近、国立に出ること、東京に出ることが多くなったが、上方に住居をおきたいか」愛之助「上方に居をかまえて一生住みたい。演目については、上方も江戸も両方できればと思っている」河村「愛之助さんの勧進帳なんか観たいですね」愛之助「ありがとうございます」
・一般家庭から歌舞伎界に入ったことについて。子供のときは単純に衣装、装置にひかれた。顔を真っ白に塗るのが面白かった。養子になったのは、お嫁に行くような感じ? 実の父は、スタートラインに立たせてもらえるならそうしなさいといった。あっさり認めてくれた。今は、父の判断は凄かったと思う。
・上方歌舞伎の現状について。昔、十三世仁左衛門は財産をなげうつような覚悟で興行をしたが、今の盛り上がりの元になったのは澤村藤十郎さんが上方歌舞伎を愛する会を立ち上げたこと。今の勘三郎さんが、「今宵は勘九郎」というテレビなどで、盛り上げてくれたりして、今の松竹座の7月公演に至る。はっきり言って東京の人の力。
・歌舞伎以外の仕事もやって名前をしってもらって、歌舞伎を見に来てほしいと思う。テレビで見た人が歌舞伎もやってるみたいだから観に行こう、みたいなきっかけ作りが大事だと思う。自分も、何もやってなかったら歌舞伎は一生見なかったろうと思う。
・10月にエグザイルと共演する。エグザイルはファン層がひろい。リーダーのひろさんは頭が良い。芝居みても面白かったので声をかけさせていただいた。松竹は、こういう仕事には大反対。
・結婚について。余裕がない。生きていくので精一杯。しかし、最近ファンクラブで聞くと、結婚してほしいという人が圧倒的に多い。年のせいか?
・質問のあった永楽館について。「良い質問をありがとうございます」。出石に行くと皿蕎麦が食べられ、こうのとりがみられ、永楽館で歌舞伎も観られる、といわれるようになりたい。初役で、そこでしか観られないものをやりたい。
システィナ歌舞伎にも出る。主催者からは、5年連続で出て欲しいといわれているので身体が続く限りでる。