松竹座七月大歌舞伎 夜の部2007/07/17 23:18

2007年7月17日 松竹座 午後4時15分開演 1階6列16番

「鳥辺山心中」

今回唯一の初見演目。事前に各ブログを読んで、つまらない話なのは予想していたのでその点については驚かなかった。きょうは身替座禅でも、ましてや油地獄でも眠るわけにはいかないから、この演目中に睡魔に襲われたら逆らわないつもりだった。眠らなかったのは愛之助と薪車の言い合いと果し合いが面白く、その後のつまらない愛之助と孝太郎二人のシーンがあまり長くなかったからである。特に薪車が良かった。みんながいる座敷に乗り込んできて怒鳴りはじめると眠気が吹き飛ぶ。芸質が新歌舞伎に向くのかもしれない。薪車は玉三郎と並んでも会うが、遊女お花役で出ている師匠の竹三郎と並んでも合う。いずれも大人びて華やかな美貌である。孝太郎は高音に雑音が入る以外はうまい女形だと思うが愛之助と並ぶと似合わない。座敷にいるときは愛之助に膳を出す千壽郎の方が愛之助と似合う。死装束を着て鳥辺山に向かうところも顔が似合わないのでちっとも綺麗ではない。特に孝太郎の顔をどうにかしろと思う。顔が似合わない以上に不満なのは恋人らしい所作.のときに全く情愛を感じないことである。原因をみつけて対策を講じるべきである。

「身替座禅」

この前仁左衛門の右京を見たのは15年前の中座。孝夫は美しい右京だった。きょうの右京は顔が疲れていた。皺とか頬のたるみとか、近くで顔を見ればさすがの仁左衛門も年は争えないが、きょうは、風邪をひいたときの顔のように眼のあたりが疲れて見えた。それでも相変わらず美しく楽しい右京だった。揚幕から出てきたばかりの時の語りの.「会いたい会いたい」を、仁左衛門はあんなに情感こめて言っていたのか。花子のもとに行くときの花道に出る直前の嬉しそうな様子.はいかにも仁左衛門。花子と一夜を過ごして戻ってくる花道の表情は、前回見たときの呆けたような目の焦点が合わない「よかったー」みたいな顔が好きだったが今回は浅草の勘太郎がやっていたような思い出し笑い風だった。花子との逢瀬を語る踊りは楽しいが、膝を傷めているようで、長袴の捌きがあまり上手くいっていないように見えた。きょうは他の場面でも、時折右の膝に手を当ててぐっと力を入れて立ち上がる様子が何回か見られた。

玉の井役の歌六の女形ははじめて見たが、ちゃんとした女形ができることに驚いた。この役は立役が加役としてやるもので愛之助のようにきちんとした女形の声を出せるのは例外なのだと思っていた。歌六は仁左衛門やその流れの愛之助のように急に立役の太い声になることも少なく、自然に笑わせていた。

愛之助の太郎冠者は顔も素顔との落差があまりなくて好もしいし、うまいだろうとは思っていたが予想以上に良かった。踊りで玉の井がお化粧する真似をするところが特に良かった。

浅草と比べると右京と玉の井が円熟のカップルであるのに対し、千枝小枝が若かった。千枝の壱太郎は女形の台詞は初めてきいたがうまい。

右京が戻ってきてお囃子連中が現れると、太鼓の傳次郎さんがいたので嬉しくて拍手をした。

「女殺油地獄」

昼に知盛、夜に右京、与兵衛という豪華メニューは孝夫ファンとして今まで経験したことがない。今回の事態では、個人的には海老蔵よりも孝夫について思うことが多い。

もう観られないと思っていたものを思いがけず再見できて嬉しいに違いはないが、きょうはじめて孝夫の与兵衛に年を感じた。だから本当は凄いと感じた前回で見納めにした方が自分としては幸せだったのかもしれない。ただ、前回見たときは最後だとは思っていなかったので、これで孝夫の与兵衛は終わり、そして自分が見る油地獄もこれで終わり、と覚悟を決めて観ることができて良かったのかもしれない。

はじめの二幕は年を感じたが、最後の幕は暗いし頬かむりをして出てくるのでそうでもなかった。特に殺しの場の、あの狂気を含んだ目はやはりものすごく魅力がある。最後に花道を逃げて行くとき、スッポンのところで転び、揚幕の方に向き直った時の顔。この役が孝夫にとって最高で、この役にとっても孝夫が最高の演者なのだろう。

私はもう観ないが、新しい与兵衛は必要なのであり、孝夫を継ぐのはやはり海老蔵だろうと思った。孝夫の青白い炎に対して海老蔵が持っている深い闇。

愛之助の七左衛門は軽すぎる。海老蔵が与兵衛の時はそう見えなかったのかもしれないが。

孝太郎のお吉ははまり役。何をやっても世話女房風になってしまう人。

壱太郎のおかちは良かった。台詞が良いので期待できる。

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