片岡愛之助2006/02/20 00:29

19日の歌舞伎座、夜の部を見た。 最初の演目石切梶原には年初から注目し始めた片岡愛之助が俣野景久役で出た。脇役にばかり注目して見るのは初めてだ。先月松竹座で見た斧定九郎の「五十両・・・」の低音と違いやや高音の台詞。口跡がいい。座っているときの姿勢がいい。役者としては基本なのかもしれないが、周りの役者と比べてそう感じる。先日テレビで見た藤十郎の番組に稽古風景が出ていたが、そのときも姿勢がよくグラグラしないで座っているのが印象的だった。

愛之助の名前は知っていたが、写真を見るかぎりたいして綺麗でもない女形、という認識だった。自分が持っている筋書や過去の出演作を見てみると、愛之助襲名の挨拶文が載っている新橋演舞場の筋書も持っているし、孝夫・玉三郎共演の廓文章に幇間の役で出ているので絶対に何回か見ているのだが、全く記憶がない。イケメンだと知ったのは昨年の浅草歌舞伎のチラシで、主な出演者の横顔が並んでいるのを見たときである。今年の正月番組の新撰組に榎本武揚の役で出たのを見て、自然な演技に好感を持った。その後で見た松竹座の「義賢最期」が名前を意識して見たはじめての舞台である。

「義賢最期」も斧定九郎もよくやっていた。仁左衛門ファンの私が一番驚いたのは化粧した顔が仁左衛門に似ていることだ。それまで、似ているという声も聞いたが自分の眼で見るまではあんなに似ていると思わなかった。松竹座で買った写真を見た友人も似ていると言った。素顔はそんなに似ていない。二人の顔を比べて見ると口と顎の形が似ている。仁左衛門は顎の形に特徴があり、それが同じなのですごく似て見える。素顔だと違うのに、きょう見た俣野でも眉と目のあたりが似ているように見えた。不思議だ。この「仁左衛門に似ている」は超強力な武器で、仁左衛門ファンのおばさん達は色めきたっている。

愛之助に注目しているのは次の二点についてだ。 一つは仁左衛門の後継者として。 仁左衛門は現在最高の歌舞伎役者だと思う。松嶋屋は偶然にこの優れた役者を輩出したが次代にはつながらないとあきらめていたので、愛之助は存在そのものがすばらしい。「松嶋屋の秘密兵器」とでも言おうか。 もう一つは上方の役者として。 関西系の役者は子どもの代がみんな江戸っ子になってしまって、関西育ちの御曹司は仁左衛門が最後と思っていたので、上方歌舞伎は実質的には滅びたと思っていた。しかし、愛之助は大阪育ちだそうなので、まだ生き残りがいたわけだ。

松竹座の芝居を見た直後はできるだけ仁左衛門に似てほしいと願っていたが、いろんな記事や写真を見るうち、将来はこの人なりの美を追求すべきだと考えるようになった。まあ、考えるまでもないことだが。仁左衛門のようなぼっちゃんぼっちゃんした感じ、高貴さはないが、仁左衛門は絶対できない肉体労働者系の役ができそうだ。仁左衛門のような長身痩躯ではないが、歌舞伎の伝統的美観から言ったら仁左衛門の方が異常なのであって、愛之助は王道の体型なのではないか。仁左衛門と玉三郎は自分達の異常な体型を前提に美を構築していったのだから、愛之助も自分なりの美を追求してほしい。

舞台に注目するようになって日が浅いが、今の印象を書いておく。骨格がしっかりしておそらく年をとってもくずれない顔立ち、声の良さ、という素質に恵まれている。それに、たぶん器用なのだろう。だから仁左衛門に教えられたたままに演じている、と観客が感じる程度に似せられるのだろう。きょう見た俣野レベルの役なら安定して演じる力があると思う。バレエで言えばダンスール・キャラクテールとして十分な力があることはわかった、果たしてダンスール・ノーブルとしても通用するか注目されている、というのが今の段階だろうか。

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