瓜生山歌舞伎2006/07/30 23:10

京都芸術劇場

2006年7月30日 午後2時開演 京都芸術劇場・春秋座 1階12列31番

京都芸術劇場は叡電の茶山から徒歩で10分ほどの白川通り沿いにある。途中で道を聞いたら、相手の人が「このつきあたりの、階段がいっぱいあるところです」と言ったが正にその通り。映画で見る外国の裁判所のような建物。この建物の一部が春秋座で、歌舞伎をやるときだけ一部の座席をとっぱらって花道をつけるようだ。私の席は上手の一番端で、旅行用の大きな荷物を置くのにちょうど良かった。横の人たちの前を通って通路に出るのがためらわれて横から見る席とのしきりの間をがんばって通ったりしたが、座席の前のスペースが広めなので、歌舞伎座のように気を使う必要はなかったのだ。

「奥州安達原」

最初に傔杖役の段四郎が登場。次に義家役の愛之助登場。 愛之助の登場が思いのほか早くて嬉しかった。声をきいて少し風邪気味なのかと思ったが思い違いだったようだ。椅子に腰掛けても立ってもあんまり背の高さ変わらないのね、と思ったが、浅く腰掛けてるから誰でもそうか?宗任役は亀鶴。口に筆をくわえて白旗に文字を書くので、葛の葉と同じことをするのかと思ったら、書くのは真似だけで、前の布をひっぱって後ろに隠れていた文字を見せたのが失望。

中納言(実は安倍貞任)役の亀治郎が花道から出てきて、段四郎と愛之助が迎える。手をついて二人の「~あそばされましょう」という良い声がそろう。亀治郎は声が猿之助に似ている。中納言がひっこんだ後しばらくして、今度は亀治郎は女形となり袖萩と幼い娘が出てくる。千代紙人形のようなかわいい娘。小学校一年生くらいにしか見えないのだがこの子役が奇跡のようにうまい。癪を起こした母・袖萩に自分の着物を着せ掛けたり雪を水にして与えようとしているあたりは客席からすすり泣きが聞こえた。さすがに元天才子役の眼鏡にかなっただけのことはある。最後、義家が「我が娘として養う」というので愛之助の脇に立つのだが、二人並ぶと人形のように美しい。

傔杖の妻・浜夕の役は竹三郎。二週間前に松竹座で見た面々がそろっている。腰元の一人が扇乃丞さんだった。

袖萩が倒れているときに、上手の御簾が上ると中に中納言があらわれ、舞台に倒れている袖萩は吹き替えなのだと気づく。中納言が貞任だとばれた後、刀を手に義家にむかうときに袖萩がよってくる。袖萩の台詞は、後ろを向いている貞任が言う。私の席から見る限りでは、貞任役の亀治郎は別の台詞を言っているようには見えなかった。

最後の方で亀治郎、愛之助、亀鶴が台詞のやり取りをすると、みんなうまいので迫力がある。愛之助はところどころ仁左衛門を思わせる台詞まわしで、うまい。亀治郎は猿之助のように派手。猿之助を継いで猿之助歌舞伎を復活させてくれよと願う。

この演目が終わるとき、私ははじめて「出てる役者が全員うまい歌舞伎」というのを見たと思った。ロシアのバレエ団などは出てる全員がうまいが、歌舞伎は下手な人が混じるのは不可避なんだと思っていた。しかし歌舞伎にも全員うまくてレベルが高い舞台というのがありえたのだ。粒ぞろいの役者の中で見る愛之助というのも良いものだと思った。

「松廼羽衣(まつのはごろも)」

最初に伯竜(;はくりょう)役の愛之助が花道を出てくる。舟弁慶のときの舟長を思い出す姿形。天女役の亀治郎は花道すっぱんから登場。この役に関するかぎり亀治郎は綺麗じゃなくて、愛之助との顔の差がありすぎる。愛之助にもたまには美人の女形と共演させてやりたいものだと不憫さを感じたりする。亀治郎は、ただ舞台でじっとしていることの多い愛之助の顔の綺麗さを考慮に入れているのかもしれない。遠目なので断言はできないが仁左衛門似の化粧なのではないかと推測した。

この演目も亀治郎も良いとは思わなかったのだが、最後に宙乗りをやったときは猿之助の時代、歌舞伎座で終盤宙乗りが始まったときの客席の興奮を思い出して懐かしかった。春秋座には3階はなく、2階も客席がいっぱいというわけではないが、亀治郎は猿之助がそうしたように宙乗りの高さをいろいろに変えながら客先をわかせようとする。

終演後、出演者によるポスト・パフォーマンス・トーク

司会 田口章子(京都造形芸術大学 教授)

亀治郎、愛之助、竹本葵太夫

司会 「視点」ということでお話を。

亀 歌舞伎は役者中心。そういうスター主義に疑問を感じている。歌舞伎でも、誰が演じてもおもしろい、という芝居そのものの面白さを追求しても良いはず。しかし、なかなか歌舞伎のなかに良い作品がない。そういう点では義太夫狂言、いわゆる丸本物が優れている。

司会 そういう点で工夫はしたか? たとえば脚本。

亀 袖萩の出からやるのが普通だが、わかりにくいので中納言の入りからやった。

司会 演技の工夫は?

亀 まず、誰に出ていただくかが大事。私以外はこの世代におけるベストメンバーと自負している。

司会 愛之助さん、大変凛々しい義家でした。初役ですか?

愛 松嶋屋はこの演目には縁がなくて、一座したときにこの演目がかかったことがない。仁左衛門の叔父は宗任役で出たことがあるが、義家は?ときくと「知らん」と言われた。梅玉さんに聞きに行き、教えてもらえるかと思って稽古着に着替えて行ったら三分くらいで話が終わった。役の性根さえわかっていれば良い、ということで。今回、動かない役はこんなに難しいのかと痛感した。

司会 葵太夫さんがこの狂言を亀治郎さんに勧めた張本人ということですが。

葵 はい。3月パルコの「決闘! 高田馬場」を見て、貞任もバッチリと申し上げた。

司会 ここを一番見てほしい、というところは?

亀 傔杖は平家方なのに源氏についている。最初に赤旗を見せるのが普通だが今回は梅を見せる。文楽では赤旗ではなく梅。傔杖は平家に立ち戻って果てる。傔杖夫婦それぞれが苦しむ。

愛 そのとおりです。羽衣は明日が千秋楽。東京の「亀治郎の会」ではやらないので。最後ですよ、と言ってお誘い合わせの上見に来てくださいませ。

葵 羽衣を2階から見たら綺麗でした。まだ2階の一部があいていますので、今日1階の方は明日は2階で、ということで。 亀治郎さんは自前の、車が一台買えるくらいの値段の三味線を弾いています。

司会 この劇場を生かした松廼羽衣の演出を、ということで亀治郎さんにお願いした。

亀 羽衣は大体つまんない。天女が一人踊り狂って入っちゃう。伯竜が語り手になる物語があってもいい。愛之助さんみたいな立派な役者さんに出ていただいてるんだから。今回、伯竜はいつもの5倍くらい踊る。愛之助さんは松竹座に出ながら、楽の日も稽古した。公演前日はみんな十二時くらいまで稽古した。

司会 ここでしか見られない歌舞伎、というのが瓜生山歌舞伎の狙いですが、松廼羽衣は正にそれです。

葵 常磐津もお二人とも京都生え抜きの方です。

亀 松もお金がかかっています。それを3日でつぶす。

司会 皆様は今後どんなことやっていきたいですか。

亀 天下傾城。江戸時代からやっていない。これを一日2回やるので、しまったと思った。静岡で鷺娘をやる。大河ドラマに出るので9月の秀山祭をもってしばらく舞台は終わりで、その後は3月のオベラ座。その後休みで、亀治郎の会まで予定なし。

愛 亀治郎の会の後、8月、9月は踊りの会で、まとまった舞台はない。10月、松竹座の舞台に出る。 はじめは亀治郎さんも入っているのではないかと思っていたのに。11月は国立劇場、12月は歌舞伎座。

葵 文楽劇場で8月26日に公演。

亀 (若伎会の宣伝)

愛 (ありがとうございます、と受けて)9月16、17日に御堂会館で。(ここで会場から携帯の音)電話、大丈夫ですか?父と自分もちょこっと出させていただいております。

亀 関西で歌舞伎を、というのが瓜生山歌舞伎の狙い。お客様のいないところでやってもしかたないので、階段のぼるのが嫌とかわがまま言わないで来てほしい。

司会 出演者の方もまた出ていただきたい。

亀 2002年に僕が亀治郎の会を立ち上げたと同時に愛之助さんも若衆歌舞伎を立ち上げたんだから。

愛 いいですね、ぜひ皆様、よろしくお願いいたします。

葵 伊賀越道中双六に「岡崎雪降」というのがあるが、興業ベースに乗らないといわれている。この政右衛門を愛之助、お谷を亀治郎で見たい。沼津なら、亀治郎の十兵衛で。

亀 そのときは愛之助さんのおよねで。

司会 そのときは葵太夫さんが語ってくれるのですか?

(感想)寝不足で、一日中まっとうな食事ができなかった一日だったが、感動がある充実した日だった。トークショーの間、亀治郎の声はどこかで聞いたような気がするとずっと考えていた。猿之助の声とも違うようだし。結論としては、津川雅彦?

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