七月大歌舞伎 夜の部2006/07/10 20:50

歌舞伎座 2006年7月10日(月) 夜の部 午後4時半開演 1階8列34番

睡眠不足を避けるために夜の部だが一日休みをとって万全を期したつもりだったが、ワールドカップの決勝戦が延長になって床に就いたのが朝の6時。12時すぎには起きたので結局睡眠不足になり、上演中たまにウトウトした。

今月は泉鏡花特集。

「山吹」

あやつり人形遣いの男が酒を飲んでいる。男がひっこんだところへ女が来る。その後、マント姿の男が来て、女は「先生」と読んで話を始める。「先生」の方は女を知らないが、話しているうちに女は嫁入り前から「先生」を知っていたことがわかる。女の名前は縫という。女が人形遣いと家の後ろの道にいるのを見て、馬子が「不気味だ」と言って逃げる。人形遣いは女に、傘で自分を思い切り叩くように言う。叩いた後、毎日女に叩かれるために二人は結婚することになる。偶々とおりかかった村人の群れを先導していた子供二人を立会人にして二人は結婚する。女は、腐った鯉の肉を食べて「この男といっしょに行くならこのくらいのものが食べられなくては」という。男も食べる。 二人は花道を去り、先生は「自分には仕事がある」と残る。

難解な話だった。縫の役は笑三郎。背が高い女形で、うまい。人形遣いの男は歌六。二人が花道に立ったのを見て、そういえば二年前の桜姫の舞台で残月と長浦だったと思い出した。「先生」は段治郎。

馬子がどうして不気味がっているのかわからなかった。最後の先生の台詞で客が笑うのも腑に落ちなかった。

友達の話によると、原作では白山吹らしいのだが、舞台では山吹色の山吹だった。

「天守物語」

二十年以上前に真田広之の図書之助で見たのが最初で、海老蔵で見るのは二回目。演目自体は三回目。

玉三郎はプライベートも揚巻であり、桜姫であり、雲絶間姫であり・・・・と思うのだが、この富姫こそ正に彼の姿そのものであろう。

幕開き、舞台手前で侍女たちが花を釣っていて、後ろで子供達が「とおりゃんせ」を歌っていて、大きな柱が二本あり、獅子頭が置いてある舞台装置が美しい。「とおりゃんせ」を「とおしゃせぬ」ではなく「とおしません」と歌うのが気になった。

最初に打ち掛けを着て現れたのは上村吉弥。富姫は雲に乗って帰ってくる。バックの画像が動く。富姫は蓑を肩にかけた姿で現れる。 しばらくして客人の亀姫が来る。今回の春猿は二人とも同じ穴の狢なせいか、「おにくらしい」「おかわいい」「さしあげません」などの滑稽な台詞が場面によくなじむ。

前回は美しく生真面目そうな若者の海老蔵と玉三郎で「耽美」な舞台だったが、今回は海老蔵が成長して玉三郎の相手役としてがっしり受け止められるほどになったので、ラブシーンに興奮した。この二人の共演の演目としては最高なのではないか。助六と揚巻は一人一人は良いが二人の絡みは少ない。「帰したくなくなった」をはじめ図書之助に言い寄るときの玉三郎の迫力が凄い。玉三郎が海老蔵をほしいなら落としてしまえ。あるいは、現在の大スターの次代のスターに対する意地か。いずれにしろ、頑張れ、玉三郎! 海老蔵はあんたの好きにしていいぞ!

いつものことながら、見るのは三回目でも最後にどうなったのか覚えていないのだった。前回、前々回も獅子頭は獅子になって戦ったのだろうが、覚えていない。

三連休前夜2006/07/15 20:35

週の初めから寝不足、熱帯夜が続いて寝不足が更年期の身体にひびいたのかきのうは頭痛がして、さっさと仕事を片付けて帰りたかったのに、アイルランドの客先が前日はチェックだけの仕事と言ってきたものについて実はその前に翻訳もしてもらいたいと言って来た。三連休の後2日休むから、チェックの仕事についてはもうかわりの人に引き継いで段取りが終わってたのに。 すぐに手配しなければ締め切りに間に合わない翻訳の仕事を、どうして三連休前日の午後六時半になってメールで言ってくるんだ? 昨日はもう人探しをする気力もなかったので、今日は自宅から翻訳者に連絡している。

外が暑いとは思ったが35℃か。頭痛はするし暑いしでフラフラになって帰宅した。さすがに12時からのインターネットレッスンで英語しゃべる気力もなく、キャンセルして涼しい部屋で一時間ほど横になって眠った。寝室は暑かったが窓を全開にして眠った。今朝も頭痛がしたが午後中国語のレッスンが終わった頃頭痛がしなくなった。

松竹座 7月大歌舞伎 夜の部2006/07/18 23:13

松竹座 10月 蔦模様血染御書

松竹座、10月のポスターです。

2006年7月18日 午後4時半開演 1階6列20番

「一條大蔵譚」

かすかに遅刻。着席したときは鬼次郎(愛之助)とお京(孝太郎)がもう舞台に出て台詞を言っていた。去年の勘三郎襲名披露では仁左衛門と玉三郎がやった夫婦役だ。愛之助の鬼次郎は声と口跡がよく、一生懸命やっているところが役のまっすぐな性格に合っていてとてもよかった。仁左衛門がやるには、単純すぎる役なのだろう。去年は特に感動しなかった。玉三郎にも特に合った役とは思わないが、孝太郎と比べると、これが玉三郎だったら、と願う箇所がいくつかあった。茶屋の主人が「若い時分の二人連れ、後でしっぽり・・・」と言うところ、お京が踊るところ、仁左衛門の大蔵卿が美しさにみとれて長椅子から転げ落ちるところ、など。

仁左衛門の大蔵卿は、ものすごくうまいだろうと予想していったので、現実が予想を超えることはなかった。まあ、こんなもんだろう、という感じ。似た顔の愛之助と同じ舞台に出ているが、やっぱりこの人綺麗な顔をしている、と思った。

「京鹿子娘道成寺」

最初に所化達が花道から出てくる。翫雀、壱太郎、進之介、孝太郎、愛之助、その他の役者さん、の順。番付を見ると、平成若衆に出ていた役者さんたちもたくさん出ている。愛之助は進之介より背は低いが肩幅は負けていない。二人の間の孝太郎が華奢に見える。愛之助は袂から天蓋(タコ)を出す役だ。花子について「生娘、生娘」という所化と「白拍子、白拍子」という所化に分かれるが、愛之助は白拍子派。花子との問答では「して、舞姫とは?」と尋ねた。

花子が入ってきて、所化達が後ろに並びみんなお辞儀をして、劇中口上になった。藤十郎の芝居がかったところが結構好きだ。

舞尽くしは、この日は松之だったと思う。無事に終了。

私にとって道成寺は玉三郎が基本になってしまっていて、誰の道成寺を見ていてもいつも玉三郎の道成寺を思い出している。

「魚屋宗五郎」

菊五郎の宗五郎を見るのは二回目。前回同様すっきりした江戸っ子の宗五郎で、おもしろい芝居だった。 父役の團蔵が若すぎる感じを受けた。それ以外はみんな適役。

松竹座 7月大歌舞伎 昼の部2006/07/19 23:19

2006年7月19日 11時開演 1階1列16番

大阪歴史博物館が予想より良かったので長居してしまい、またもやかすかに遅刻。秀太郎が花道を出て舞台に行くまで観客席の後ろで少し待った。最前列だから場所は簡単にわかるはずだったのだが、最前列まで行ったら私の席に別の人が座っていたので、そのまま前を横切って客席係の人のところに行き、座っていた人にどいてもらった。

「信州川中島」

例によって筋はよくわからなかった。秀太郎が琴を弾きながら歌うのだが、歌がけっこううまいと思った。

「連獅子」

翫雀、壱太郎親子の親獅子、子獅子と、修験者で出る愛之助。

修験者の愛之助の顔は公式ホームページで見ていたので花道を出てきたときにすぐわかったが、太い八の字眉をつけているので事前に知らないとわからないだろう。酒入りの瓢箪を抱えた修験者で、女二人が来て「この辺りに修験者が・・・」と問われると瓢箪を隠す、滑稽な役だ。頼まれて唱える呪文もとってもいい加減。踊りの最後にはひっくり返ったゴキブリのように舞台にひっくり返ってもがく。立ち上がって生の足の裏を見せながら退場して行った。女二人は雁乃助さんと扇乃丞さん。扇乃丞さんは浪花花形の伊勢音頭で顔を覚えた。愛之助はこういう中堅どころの役をやると安定してうまい。

壱太郎の子獅子は去年の比叡山薪歌舞伎で、仁左衛門と共演したのを見た。去年は仁左衛門が相手で遠慮していたのかもしれないが、今回は最後の毛振りのときにビュンビュン振っていかにも高校一年の若い力を感じさせてくれた。細長い手足と、獅子になってからの化粧が似合う顔立ちなので、現代的な雰囲気のある女形が似合うかもしれない。

「口上」

下手から仁左衛門、段四郎、壱太郎、翫雀、藤十郎、雀右衛門、我當、時蔵、秀太郎、菊五郎。

時蔵が立役姿だったのと段四郎の髷が短かったのが印象的だった。わりとみんなあっさりした内容で、顔を上げた途端に私の隣の席の人が吹き出した秀太郎が「先斗町へ遊びに連れて行ってもらった」と言ったのと菊五郎が「藤十郎さんとの共通点は奥さんが怖いこと」と言ったのがおかしかったくらい。藤十郎は夜と同じで芝居がかった口上。素面の人たちの中で一人酔っているような感じ。

「夏祭浪花鑑」

5月の演舞場で見たときに途中眠ってしまったので心配だったが、今回は眠らないで集中して見られた。やっとなんとか筋が飲み込めた。

5月と比べてもしかたないようなものだが、芝居の始めから舞台上の人が本物の関西弁を話しているのだけでも違う。

我當の釣船三婦は関西弁の等身大の人間に見えた。あんなにいい加減に浴衣着てもいいもんなのか、とか思いながら見ていた。

仁左衛門の一寸徳兵衛は信二郎がやったときとは別の役のように凄みがあった。「ちょっと待ってもらおうかい」と言うところとかの声が全然違う。縁台に座っているときに目の前に見える綺麗な足をじっと見た。反り返った親指が魅力的な細長い綺麗な足。団七役の藤十郎と組んだ動きをするところは、吉右衛門と信二郎の方が楽しそうに見えた。あれを吉右衛門と仁左衛門の長身コンビで見たかった。

5月に見たとき少し眠ってしまった釣船三婦内の場、今回は眠らなかった。 おつぎ役の竹三郎が色っぽい美人。素顔も色っぽい顔なので驚きはしないが、いかり肩で背も高そうなのに綺麗な女形になるものだ。

菊五郎のお辰は見ていて抵抗がない。5月の福助を見たときそんなに変だと思ったわけではないが、菊五郎みたいなのがお手本なのだろうと思う。

義平次役の段四郎は、うまかった。5月に同じ役をやった歌六もよかったし、5月に段四郎がやった釣船三婦も悪くはなかったが、釣船三婦は我當の方が自然だし、義平次は場数ふんでるだけ段四郎が歌六より勝ってると思う。 義平次が団七が恩を受けた磯之丞の恋人琴浦をだまして別の男のところに連れて行こうとするから義平次と団七の間に争いが起きるわけだ。義平次は小悪党で、ものすごく悪者にもものすごく意地悪にも見えない。意地悪に見えたのはテレビで見た平成中村座の笹野だ。

殺しの場は蓮池のまわりだが、最前列だったので蓮の葉で義平次と団七の姿が見えなくなることがあった。

グループサウンズ・カーニバル20062006/07/22 23:26

2006年7月22日 中野サンプラザ 午後5時開演 2階4列33番

前に数回行ったことがあるグループサウンズのコンサートだが、今回はeプラスでチケットが安くなっていたので買った。6300円のところを3900円。歌舞伎に比べたらなんて安いんだろう。近くで顔が見たいわけじゃないので、席なんかどこでもいい。

ロビーで、アイ高野追悼アルバムというCDを売っていた。グループサウンズのコンサートでは、アイ高野、真木ヒデト、渡辺茂樹が「若手三羽烏」だったが、その一人が死んでさびしい。今回のコンサートでは最初の方に「君が好きだよジェニー」、最後に「好きさ好きさ好きさ」を出演者全員で歌った。

司会は真木ヒデト、岡本、マモル・マヌーの三人。最後に歌ったそれぞれのヒット曲「長い髪の少女」「若さゆえ~」「スワンの涙」がこのメンバーでの最高のヒット曲。三人とも歌がうまい。マモルはこんなに歌がうまい人だと昔は知らなかった。「銀のグラス」というのを歌ったが、いい曲だと思った。途中で顔を見せた渡辺茂樹もマモルもずいぶん太ったが、真木ヒデトはあいかわらず細身で、グループサウンズの雰囲気をよく残している。

グループサウンズよりロックの感じがする鈴木ヒロミツはのどの調子が悪いということで人口唾液というのを飲んでいたが、あいかわらずうまい。私にはどうもグループサウンズと思えないパープルシャドウズの小松も出ていた。最近のコンサートでは常連らしい。

病気で入院している安岡力也は出ないが、かわりにシャープホークスが出た。あまり覚えていなかったが、イケメンハーフグループであったようだ。

七月大歌舞伎 昼の部2006/07/23 20:20

2006年7月23日 歌舞伎座 11時開演 1階10列5番

「夜叉ヶ池」

かつて、玉三郎主演の映画を見た。玉三郎は白雪姫の役の方が良かったが、舞台で見る春猿は百合の方が合っているかもしれない。洋服を着ている人がたくさん出てきて新劇風だが、鯉と蟹の登場シーンは歌舞伎風、というか猿之助歌舞伎を思い出す。

「海神別荘」

日生劇場で見たのに、海老蔵が出たのを覚えているだけで、玉三郎が出たのさえ忘れていた。ただ休憩なく一挙に終わったのが商業演劇としては非常に珍しかったのでそれはよく覚えている。周りのレストランがまだ全部開いていて夕食をとるのに困らなかった。舞台装置も綺麗で印象的なのに、なぜ何も覚えていないのだろう。

海老蔵の衣装は白鳥の湖のロットバルトを思わせる。玉三郎の白いドレスは綺麗だが一番つまらない。前回もこれだったとしたら印象が薄いから覚えていないのだ。侍女や笑三郎たちの着物もどきの衣装の方がずっと良い。

公子役の海老蔵は美しく、威厳と品があって、彼以外にこの役はできないだろうと思った。柱にしばられて殺されようとする玉三郎の美女が、刀を振り上げた海老蔵に「私を殺そうとするその顔の美しさ。もう故郷は忘れた」というらうな台詞を吐く。あまりにぴったりで、この台詞を言いたいために玉三郎はこの芝居を選んだのだろうと思った。それにしても、こんなおいしいシーンを忘れてしまったなんて、前に見たときはどんな精神状態だったんだ、自分?

ということで、最後はめでたく結婚式となり、海老蔵の「男の行く極楽に女はいない!」で幕。

この芝居に限って、カーテンコールが嬉しかった。夜の部の「天守物語」でくどいて、昼の「海神別荘」で結婚式に持ち込んだんだ、玉三郎が幸せそうで良かった。

七月大歌舞伎 夜の部 二回目2006/07/29 23:36

2006年7月29日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階5列26番

明日は京都で瓜生山歌舞伎を見る。昨日までに仕事が終わらなかったので休日出勤して終わらせようとしたが、最初の演目の「山吹」をあきらめても仕事は終わらず、4時になっても終わらなかったので一旦外出して「天守物語」を見終わったらまた会社に戻って終わらせることにした。サイテー。

「天守物語」

玉三郎の台詞で笑う場面は元々多いのだが、きょうは客席が笑いすぎだと感じた。特に、まるで喜劇映画でも見ているように何から何まで笑っている人がいて不愉快だった。図書之助の「お言葉もかえりみずまかりこしました」という台詞まで笑う。

図書之助の役には年齢制限がある。海老蔵も今回が最後だろう。これ以上の図書之助は私が生きている間には現れないだろうから、玉三郎が富姫の「天守物語」はもうやらないのではないかと感じた。

瓜生山歌舞伎2006/07/30 23:10

京都芸術劇場

2006年7月30日 午後2時開演 京都芸術劇場・春秋座 1階12列31番

京都芸術劇場は叡電の茶山から徒歩で10分ほどの白川通り沿いにある。途中で道を聞いたら、相手の人が「このつきあたりの、階段がいっぱいあるところです」と言ったが正にその通り。映画で見る外国の裁判所のような建物。この建物の一部が春秋座で、歌舞伎をやるときだけ一部の座席をとっぱらって花道をつけるようだ。私の席は上手の一番端で、旅行用の大きな荷物を置くのにちょうど良かった。横の人たちの前を通って通路に出るのがためらわれて横から見る席とのしきりの間をがんばって通ったりしたが、座席の前のスペースが広めなので、歌舞伎座のように気を使う必要はなかったのだ。

「奥州安達原」

最初に傔杖役の段四郎が登場。次に義家役の愛之助登場。 愛之助の登場が思いのほか早くて嬉しかった。声をきいて少し風邪気味なのかと思ったが思い違いだったようだ。椅子に腰掛けても立ってもあんまり背の高さ変わらないのね、と思ったが、浅く腰掛けてるから誰でもそうか?宗任役は亀鶴。口に筆をくわえて白旗に文字を書くので、葛の葉と同じことをするのかと思ったら、書くのは真似だけで、前の布をひっぱって後ろに隠れていた文字を見せたのが失望。

中納言(実は安倍貞任)役の亀治郎が花道から出てきて、段四郎と愛之助が迎える。手をついて二人の「~あそばされましょう」という良い声がそろう。亀治郎は声が猿之助に似ている。中納言がひっこんだ後しばらくして、今度は亀治郎は女形となり袖萩と幼い娘が出てくる。千代紙人形のようなかわいい娘。小学校一年生くらいにしか見えないのだがこの子役が奇跡のようにうまい。癪を起こした母・袖萩に自分の着物を着せ掛けたり雪を水にして与えようとしているあたりは客席からすすり泣きが聞こえた。さすがに元天才子役の眼鏡にかなっただけのことはある。最後、義家が「我が娘として養う」というので愛之助の脇に立つのだが、二人並ぶと人形のように美しい。

傔杖の妻・浜夕の役は竹三郎。二週間前に松竹座で見た面々がそろっている。腰元の一人が扇乃丞さんだった。

袖萩が倒れているときに、上手の御簾が上ると中に中納言があらわれ、舞台に倒れている袖萩は吹き替えなのだと気づく。中納言が貞任だとばれた後、刀を手に義家にむかうときに袖萩がよってくる。袖萩の台詞は、後ろを向いている貞任が言う。私の席から見る限りでは、貞任役の亀治郎は別の台詞を言っているようには見えなかった。

最後の方で亀治郎、愛之助、亀鶴が台詞のやり取りをすると、みんなうまいので迫力がある。愛之助はところどころ仁左衛門を思わせる台詞まわしで、うまい。亀治郎は猿之助のように派手。猿之助を継いで猿之助歌舞伎を復活させてくれよと願う。

この演目が終わるとき、私ははじめて「出てる役者が全員うまい歌舞伎」というのを見たと思った。ロシアのバレエ団などは出てる全員がうまいが、歌舞伎は下手な人が混じるのは不可避なんだと思っていた。しかし歌舞伎にも全員うまくてレベルが高い舞台というのがありえたのだ。粒ぞろいの役者の中で見る愛之助というのも良いものだと思った。

「松廼羽衣(まつのはごろも)」

最初に伯竜(;はくりょう)役の愛之助が花道を出てくる。舟弁慶のときの舟長を思い出す姿形。天女役の亀治郎は花道すっぱんから登場。この役に関するかぎり亀治郎は綺麗じゃなくて、愛之助との顔の差がありすぎる。愛之助にもたまには美人の女形と共演させてやりたいものだと不憫さを感じたりする。亀治郎は、ただ舞台でじっとしていることの多い愛之助の顔の綺麗さを考慮に入れているのかもしれない。遠目なので断言はできないが仁左衛門似の化粧なのではないかと推測した。

この演目も亀治郎も良いとは思わなかったのだが、最後に宙乗りをやったときは猿之助の時代、歌舞伎座で終盤宙乗りが始まったときの客席の興奮を思い出して懐かしかった。春秋座には3階はなく、2階も客席がいっぱいというわけではないが、亀治郎は猿之助がそうしたように宙乗りの高さをいろいろに変えながら客先をわかせようとする。

終演後、出演者によるポスト・パフォーマンス・トーク

司会 田口章子(京都造形芸術大学 教授)

亀治郎、愛之助、竹本葵太夫

司会 「視点」ということでお話を。

亀 歌舞伎は役者中心。そういうスター主義に疑問を感じている。歌舞伎でも、誰が演じてもおもしろい、という芝居そのものの面白さを追求しても良いはず。しかし、なかなか歌舞伎のなかに良い作品がない。そういう点では義太夫狂言、いわゆる丸本物が優れている。

司会 そういう点で工夫はしたか? たとえば脚本。

亀 袖萩の出からやるのが普通だが、わかりにくいので中納言の入りからやった。

司会 演技の工夫は?

亀 まず、誰に出ていただくかが大事。私以外はこの世代におけるベストメンバーと自負している。

司会 愛之助さん、大変凛々しい義家でした。初役ですか?

愛 松嶋屋はこの演目には縁がなくて、一座したときにこの演目がかかったことがない。仁左衛門の叔父は宗任役で出たことがあるが、義家は?ときくと「知らん」と言われた。梅玉さんに聞きに行き、教えてもらえるかと思って稽古着に着替えて行ったら三分くらいで話が終わった。役の性根さえわかっていれば良い、ということで。今回、動かない役はこんなに難しいのかと痛感した。

司会 葵太夫さんがこの狂言を亀治郎さんに勧めた張本人ということですが。

葵 はい。3月パルコの「決闘! 高田馬場」を見て、貞任もバッチリと申し上げた。

司会 ここを一番見てほしい、というところは?

亀 傔杖は平家方なのに源氏についている。最初に赤旗を見せるのが普通だが今回は梅を見せる。文楽では赤旗ではなく梅。傔杖は平家に立ち戻って果てる。傔杖夫婦それぞれが苦しむ。

愛 そのとおりです。羽衣は明日が千秋楽。東京の「亀治郎の会」ではやらないので。最後ですよ、と言ってお誘い合わせの上見に来てくださいませ。

葵 羽衣を2階から見たら綺麗でした。まだ2階の一部があいていますので、今日1階の方は明日は2階で、ということで。 亀治郎さんは自前の、車が一台買えるくらいの値段の三味線を弾いています。

司会 この劇場を生かした松廼羽衣の演出を、ということで亀治郎さんにお願いした。

亀 羽衣は大体つまんない。天女が一人踊り狂って入っちゃう。伯竜が語り手になる物語があってもいい。愛之助さんみたいな立派な役者さんに出ていただいてるんだから。今回、伯竜はいつもの5倍くらい踊る。愛之助さんは松竹座に出ながら、楽の日も稽古した。公演前日はみんな十二時くらいまで稽古した。

司会 ここでしか見られない歌舞伎、というのが瓜生山歌舞伎の狙いですが、松廼羽衣は正にそれです。

葵 常磐津もお二人とも京都生え抜きの方です。

亀 松もお金がかかっています。それを3日でつぶす。

司会 皆様は今後どんなことやっていきたいですか。

亀 天下傾城。江戸時代からやっていない。これを一日2回やるので、しまったと思った。静岡で鷺娘をやる。大河ドラマに出るので9月の秀山祭をもってしばらく舞台は終わりで、その後は3月のオベラ座。その後休みで、亀治郎の会まで予定なし。

愛 亀治郎の会の後、8月、9月は踊りの会で、まとまった舞台はない。10月、松竹座の舞台に出る。 はじめは亀治郎さんも入っているのではないかと思っていたのに。11月は国立劇場、12月は歌舞伎座。

葵 文楽劇場で8月26日に公演。

亀 (若伎会の宣伝)

愛 (ありがとうございます、と受けて)9月16、17日に御堂会館で。(ここで会場から携帯の音)電話、大丈夫ですか?父と自分もちょこっと出させていただいております。

亀 関西で歌舞伎を、というのが瓜生山歌舞伎の狙い。お客様のいないところでやってもしかたないので、階段のぼるのが嫌とかわがまま言わないで来てほしい。

司会 出演者の方もまた出ていただきたい。

亀 2002年に僕が亀治郎の会を立ち上げたと同時に愛之助さんも若衆歌舞伎を立ち上げたんだから。

愛 いいですね、ぜひ皆様、よろしくお願いいたします。

葵 伊賀越道中双六に「岡崎雪降」というのがあるが、興業ベースに乗らないといわれている。この政右衛門を愛之助、お谷を亀治郎で見たい。沼津なら、亀治郎の十兵衛で。

亀 そのときは愛之助さんのおよねで。

司会 そのときは葵太夫さんが語ってくれるのですか?

(感想)寝不足で、一日中まっとうな食事ができなかった一日だったが、感動がある充実した日だった。トークショーの間、亀治郎の声はどこかで聞いたような気がするとずっと考えていた。猿之助の声とも違うようだし。結論としては、津川雅彦?

瓜生山歌舞伎 2回目2006/07/31 22:26

劇場前の階段の上から

2006年7月31日 午後2時開演 1階10番4列

今日は花道のすぐ外側だった。きょうは、きのうトークショーで聞いたが意味がわからなかった箇所を理解できるように見ようと意気込む。亀治郎が、袖萩になるより前に桂中納言の姿で花道から出てきたので、これを先にやると言ったんだ、と一つわかる。桂中納言が花道に立っているとカーブのある刀を帯びている姿が美しく、「日出処の天子」を思い出す。きのうは気づかなかったが、宗任を見て互いに顔を見交わす。

袖萩が三味線を弾くところでは、車一台買える値段という三味線をじっと見た。きのう感じたよりも長く弾き語りをしていた。袖萩が一度ひっこみ、次に出てきたときは、あれは吹き替えだ、と思ってみた。亀治郎に姿が似ているが、台詞はひとつもない。

愛之助の声が急に小さくなってどうしたのかと思っていたら、下手側の音楽が止んだらまた普通のボリュームで聞こえだ。こんな現象にはじめて気づいた。

花道のすぐ横だったので「松廼羽衣(まつのはごろも)」 では、花道を出てくる愛之助が近くでよく見られた。手の血管も見えたので嬉しい。 最後、舞台から下がって消えていく愛之助に対し、亀治郎は得意そうな顔をしながら宙乗りに入る体勢で観客の視線を集める。上を見上げて着物の中を覗き込んだが、足袋と足の一部しか見えなかった。

瓜生山歌舞伎の千秋楽なので、宙乗りが終わったあと亀治郎が戻ってくるのではないかと客が期待して手拍子を始めたので、外に出てアンケートを書いていた私もあわてて中に戻った。しかし、終了のアナウンスが入ったのでみんな笑って帰り支度を始めた。