昭和60年(1985年)3月4日の日記2007/02/12 19:07

3/4(月)

私はきょうはじめて玉三郎を見た。あの人はただ立っているだけがきれいというのではなく、一つ一つの動きが美しく、どんなポーズも、伸びをするのでさえ美しく見せる。日本舞踊の動きが基本なのだ。観客にきれいに見えるためには身体をそらせたりねじったりかなり辛い動きが多いだろうと推察する。両手に鏡を持って見るとか、手に持った経文がバラバラにほどけて行くとか、磨きぬかれた美しさがある。そして、玉三郎はお姫様の時も美しく、遊女になったときもそれはまた美しくて、駕籠の簾が上がると皆がため息をつく。玉三郎は、ラブシーンの時に誘うような演技がうまい。

孝夫も身奇麗な感じで、スッキリした色男だし、あの2人は良いコンビだと思う。きょうの演目は「桜姫東文章」と言って、聞いたことのないものだが、濡れ場もあって楽しめた。

はじめ、若い僧の清玄が稚児の白菊丸と入水するために川岸にいる。白菊丸だけが飛び込む。それが発端で、幕がしまって上がると、パッと明るくなり、桜の花の下に、清水の舞台の上に色とりどりの着物を着た腰元とお姫様が並んでいる。そこへ、17年後の清玄が現れ、桜姫は出家したいと言う。まわりの者は止める。姫は生まれつき左の手が開かないのだが、清玄がお経を上げるとその手が開き、その中から清玄と名の入った箱が出てくる。それは白菊丸が川に飛び込んだときに手に持っていたものだ。その姫に、昔許婚者だった男がいた。男は姫の手が治ったと聞いてよりを戻すための文使いに権助という男を送る。それが孝夫の二役だ。権助の腕の彫り物を見て姫の態度が変わる。腰元が引き上げた後で姫は男をそばに呼んで自分の腕の彫り物を見せる。そこには同じ彫り物がある。姫は以前その男と寝たことがあり子供も産んだ。子供はよそにもらわれて行った。そして、ラブシーンになり簾が下りる。そこを、腰元と僧がのぞく。やがて姫は不義のかどでつかまる。そして清玄と書いた箱がそばにあったために相手は清玄ということにされる。2人は河原で晒しものになるが清玄はどうせだからいっしょになろうという。姫は気がすすまない。赤ん坊を預かっていた人が返しに来る。清玄は赤ん坊を抱え、姫は誰かに連れ去られる。前の腰元と僧がいっしょに暮らしているあばら家に清玄がいて、寝込んでいる。赤ん坊をどこかの女の人が連れて行った。腰元達は清玄に毒を盛り首を絞める。墓掘りの権助が呼ばれ、やがて遊女になった桜姫が来る。権助は腰元達を追い出す。その権助の留守の間に清玄が生き返り桜姫に迫ったので桜姫は清玄を殺してしまう。そして彼の亡霊がつきまとうことになる。権助は桜姫を遊女屋に売るが、亡霊がついているということで返されて来る。権助は赤ん坊を引き取るが、それは桜姫の子だった。桜姫は清玄の話と酔った権助の話から権助が親の仇と知り、赤ん坊も権助も殺してしまう。そして都鳥の一巻というお家再興のための巻物が戻ってきて、最後はまた舞台が華やかになり、孝夫が口上を言って終わる。

きょうはイヤホンは借りなかった。孝玉コンビが安く買えたらまた見たい。たしかに、きょうは年とった人もいたが、この前より若い人が多かった。