芸術祭10月大歌舞伎 夜の部2019/10/10 23:37

10月9日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階6列30番

「三人吉三」

お嬢吉三役の梅枝の「月も朧に~」の台詞は貫禄だった。
お嬢が去ろうとすると、私の席のまっすぐ前あたりに置かれた籠の中からお坊吉三役の愛之助が出てきて、呼び止める。お嬢が急に女の声に変るのは、おとせ(尾上右近)相手に男の声に変るときより面白い。
梅枝と愛之助は二人とも台詞がうまくて、二人の台詞のやり取りは聞きごたえがあった。

演舞場で観たときは愛之助のお坊はそれほど良いと思わなかったが、改めてみると、端正な顔立ちがお坊に合うと思う。

和尚吉三の松緑、伝吉役の歌六、源次坊役の亀蔵が、演舞場のときと同じ役だった。

和尚が双子の妹と弟を手にかけるシーンが一番インパクトがある。演舞場のときは今月お嬢ダブルキャストの梅枝と松也だったなあ、と思いながら観た。

吉祥院でお坊と再会したお嬢が自分も会いたかったというあたりは梅枝は声の色を変えていた。本当にうまい。

大詰の本郷火の見櫓の場はお嬢の見せ場かと思ったが柵が上下してお坊が外の屋根から飛び移って中に入ってきたし、お嬢が太鼓を打ち鳴らし、和尚も加わった立ち回りで華やかだった。

「二人静」

小鼓、大鼓が舞台上に腰かけて、笛は座っている。
若菜摘役の児太郎が花道から出てきて七三のところで台詞を言った後、舞台に来る。ほんの短い間、歌舞伎風に踊るのが綺麗だ。
次に静御前の霊役の玉三郎が出てくる。
神職役の彦三郎は良い声で、良い能楽師になれそうだ。
玉三郎と児太郎が二人で踊る。能風の動きだが、児太郎は踊りがうまいのがわかる。玉三郎はもっと自由度の高い歌舞伎の踊りの方が合うと思う。

芸術祭10月大歌舞伎 昼の部 初日2019/10/07 00:14

2019年10月2日 歌舞伎座 午前11時開演 1階7列13番

「廓三番叟」

傾城役の扇雀は全然つまらないのに、新造役の梅枝が踊りだすと顔は玉三郎系で綺麗だし踊りも所作のそれぞれに魅力があって見応えのあるものになるので驚く。

「御摂勧進帳」

初めて観る演目だ。
花道を出てくるのが四天王が先で、四天王がそこで台詞を言い、後から弁慶が出てくる。勧進帳の読み上げのときに弁慶の後ろに迫ってくるのは富樫だけでなく全部で4人くらい覗こうとしている。
というように歌舞伎十八番の勧進帳と比べてしまうが、勧進帳以前の作品ということなので、パロディではない。ただ全体に滑稽味のある話だ。
弁慶役の松緑の顔は、隈取がある上に、鼻の下と顎が山賊のひげのように灰色に塗られていて、ふざけた雰囲気だ。相変わらず語尾が伸びるような台詞の言い方だが、この顔には合っているような気がする。
富樫(愛之助)は屋台の上に出てきて、そのままそこにいる。普通の勧進帳のように弁慶と富樫の対決という感じではなく、安宅の関を守る役人の中には斎藤次(彦三郎)というのもいる。
義経一行が去った後の荒事で弁慶は番卒たちの首を引き抜き、それを大きな桶に投げ込む。そして最後には「芋洗いをお目にかけます」と言って杖で桶をかき回しているところで、幕。
滑稽と残酷が混じった、歌舞伎らしい芝居と言うべきか。

「蜘蛛絲梓弦」
これは、前に名古屋で観たことがある。
碓井貞光(松也)と坂田金時(尾上右近)が源頼光を警護しているところへ、小姓(愛之助)がスッポンから登場。ドロドロで一瞬妖怪の所作をする。
愛之助は楽しげな雰囲気が良かった。特に太鼓持は、和事が生きるせいか良かった。座頭は滑稽味を帯びた雰囲気。傾城は、うまいのだが、愛之助の女形を楽しみにしている自分にとっては地味すぎた。顔の化粧をもっと派手な美人風にできないものだろうか。
最後は蜘蛛の精になって白い糸をたくさん巻き、それが舞台の紅葉とコントラストになって綺麗だった。

「江戸育お祭佐七」

神田祭の当日、佐七(菊五郎)や小糸(時蔵)たちが踊り屋台の踊りを見るために神酒所に集まっている。
その踊りが「道行旅路の花聟」。お軽は亀三郎、勘平は眞秀、坂内は橘太郎。亀三郎は女形に進むのかと思うようなきれいな顔で、終始真剣に踊っていた。指を折る所作とか各所作がしっかりしている。子供ながらもプロの踊り。これに比べると、勘平の眞秀は顔は可愛いが「子供がやらされてる」感じがする踊り。坂内役の橘太郎が、二人にうまく絡んでやっていた。
客席も舞台の上の人も注目していたこの踊りが一番の見もので、本編は、特に面白くはない江戸っ子の話。

第二回 古典芸能を未来へ2019/08/29 00:49

2019年8月28日 国立劇場大劇場 午後4時半開演 2階6列15番

「三番叟」
亀井忠雄が舞台中央に座り、 地謡が花道に並ぶ。「翁」にあたる部分だろうか。亀井忠雄の大鼓と声が力強かった。
その後、後ろから三兄弟たちと、上手に海老蔵、下手に萬斎が現れた。
萬斎が先に舞い、最後の方に三味線が入って海老蔵が踊りだした。
鈴の段では萬斎は面をつけた。上から見ていると照明で白い正方形が上手と下手にあって、その中で二人が踊っているように見えた。

「西王母」
上手から田中佐太郎、傳左衛門、亀井忠昭、亀井太一、傳次郎、の順に並ぶ。
忠昭は大鼓を打って、ヤーとかヨーという声がよく通る。太一は太鼓で隣の父と動きがシンクロしているのが可愛い。二人とも、ただの習い事ではなくて将来のプロであることを自覚している迫力を感じた。

「野宮」
半能で、シテは観世清和、ワキは宝生欣哉、大鼓は亀井忠雄。

「勧進帳」
傳左衛門、傳次郎が出て、勧進帳の長唄の素演奏。

「老松」
玉三郎の舞踊。前回の「囃子の会」のときも老松だった。
小鼓に、傳左衛門、傳次郎に忠昭が加わる。忠昭のよーっという子供の声が響いて、その前で玉三郎が踊る。
幕が下りた後のどよめきが前回と同じだった。、

「石橋」
「三響會」らしい演目だ。
2つの台の上に釣鐘がのっていて、演奏が始まると釣鐘が割れて中から能の獅子が姿を現す。シテは片山九郎右衛門と、観世喜正。ややあって、一階席で拍手が起き、花道から赤い鬣の海老蔵の仔獅子が出てくるのが見えた。海老蔵の仔獅子を見るのは初めてだ。歌舞伎の連獅子のときと同じで、一度花道を戻ってまた出てくる。、静かな動きの二頭の能の獅子の前で、激しく動く仔獅子。しかし、仔獅子と能の獅子達がいっしょに足を踏み鳴らすこともあった。海老蔵は毛振りをしながら花道を横向きに進み、七三で正面に向き直ってそこでも毛振りをした。国立劇場は花道と客席の間に十分なスペースがあるので、毛先で客の頭を叩いたりすることがないようだ。
太鼓の傳次郎のイヤーッという声がかっこよかった。ハーツと声を出す広忠。
美術的にとても綺麗で、構成も良く、能とも歌舞伎とも違う魅力があって、「三響會」が懐かしくなった。

八月納涼歌舞伎 3部2019/08/19 00:03

2019年8月17日 歌舞伎座 午後6時半開演 2階7列34番

「新版 雪之丞変化」

幕開きは、政岡が八汐を刺す場面。政岡は玉三郎で八汐は七之助。そして床下になり、中車演じる仁木弾正が面明かりを受けて花道を歩く。その後は舞台後ろのスクリーンに仁木の拵えの中車が楽屋に戻るシーンが映る。そしてまた実演となり、楽屋で、仁木弾正を演じていた菊之丞(中車)が弟子の雪太郎(玉三郎)にダメ出しをする。
こんな風に実演とスクリーンが組み合わさって話が進む。
「雪之丞変化」のストーリーは、前に見たものと全然違っている。
五役を演じている中車は頑張っているが、個人的には先輩役者星三郎役の七之助と雪之丞役の玉三郎が二人で話し、後ろのスクリーンに映像が映し出される場面が楽しかった。玉三郎が、揚巻をやってみたい、と言い、七之助が助六で玉三郎が揚巻になって一場面をやる。七之助は男としても綺麗で、30過ぎて玉三郎の相手もやれるような芸のレベルになった。コクーンでやった与三郎みたいな雰囲気の助六を観るのも楽しいかもしれない。
来月の南座の話をしたり、二人で「鰯売恋引網」の一場面を演じたりした。星三郎の役は、玉三郎としては本当なら勘三郎にやってもらいたかった役なのだろうと感じた。
スクリーンには鷺娘や桜姫や娘道成寺の一部も映り、映像の前で玉三郎が後ろ向きでポーズをとったり娘道成寺の最初の拵えで一部を踊ったりするのを見るのがとても楽しかった。
最後は玉三郎を中心に、元禄花見踊り。
歌舞伎じゃないかもしれないが、金出して見たい人はたくさんいるだろうと思える公演だった。

市川會 三代襲名披露2019/08/09 01:11

2019年8月8日 シアターコクーン 正午開演 1階C列13番

「寿式 三番叟」
寿紅の翁、翠扇の千歳、海老蔵の三番叟。

「高砂」
プログラムによると、きょうのシテは林宗一郎。「獅子虎傳阿吽堂」で高砂の歌唱指導を受けたのを思い出す。あのときに高砂の舞囃子も観たが、あれ以来大好きだ。大鼓は広忠。カーンという音は暑い日に聴くと気持ちがいい。

「口上」
上手から寿紅、海老蔵、翠扇、ぼたんの順に座っている。海老蔵の叔母、妹、娘の三代襲名だ。三代の団十郎の娘たち。海老蔵に「おばちゃん」と促されて寿紅が最初に口上した。古稀での襲名だそうだ。次はぼたんちゃん。「皆様のご賛同を得て市川ぼたんの名を四代目として相続いたす運びと~」なんて言って、しっかりしてるのでびっくり。かわいい~。最後は翠扇。亡くなった父も喜んでいることでしょう、と。

「玉兎」
勘玄は初めて見たが、やる気を感じる。祖父や父に似ぬ演技派になるかも。

「羽根の禿」
ぼたんちゃんは目がぱっちりで甘さのある顔なのが、団十郎の孫の雰囲気。綺麗な髪飾りや衣装がよく似合って、かわいい。

「京鹿子娘道成寺」
きいたか、きいたか、と出てきたのが勘十郎。きいたぞ、きいたぞ、は菊之丞。二人は強力、ということだが、いつもの娘道成寺で言えば所化の役回り。コロッと横倒しになるのは菊之丞はさすがにうまかった。
正直、途中で飽きるかと思ったのだが、勘十郎と菊之丞の舞踊が途中に入ったし、翠扇は色っぽくて愛嬌もあるので予想外に見ていて楽しかった。翠扇は顔の骨格がしっかりしているせいか、女形を見ているような感じがする。
押し戻しは海老蔵。

国立劇場 7月歌舞伎鑑賞教室2019/07/09 01:38

2019年7月4日 国立劇場大劇場 午後2時半開演 1階14列9番

きょうは生徒さんたちより一般のお客さんの方がずっと多かった。

「歌舞伎のみかた」の解説の新悟が花道から大股で跳ねるような感じで現れた。もう一人の解説は玉太郎。今日は客席からの参加はなくて、菅原伝授手習鑑の人間関係を説明した、


「車引」
きょうの杉王丸は左近だ。変声期で声が裏返るが大きな声を出していた。杉王丸は小さな役と思っていたが、こちらが注目しているせいもあって存在感があった。
新悟が桜丸。赤い差し色が効果的でかわいい印象。松王丸の松緑はあんなもんだろうが、梅王丸の亀蔵は台詞も体の形も手探り感があった。亀蔵を下手だと思ったことはないのだが、数年前に観た萬太郎の方がうまかったと思う。

「棒しばり」
気の合う3人で楽しかった。大名役の松江が持ち味であんまり怖くなさそうなのも良かった。
次郎冠者の松緑の踊りが良くて、片方の手で放り投げた扇をもう片方の手で受け取るのが成功した後は安心して乗りに乗っていた。

6月歌舞伎鑑賞教室2019/06/20 01:27

2019年6月7日 国立劇場 午後2時半開演 2階3列22番

「歌舞伎のみかた」
解説は虎之介。真っ暗な中から洋楽とともに虎之介が現れて大きなせりが動く。
花道、せり、などの言葉の説明の中で、上手にいる伴奏の人たちは義太夫節、あるいは竹本と呼ばれる、と言った。「竹本」という言葉の内容を今回初めて知った。虎之介が生まれるずっと前から歌舞伎観ているくせに、ぼーっとしすぎ。
ドロドロでスッポンから幽霊が出てくると一斉にキャーッ。反応いいなあ。
今回も、見得や女形の所作をやってみる二人が代表として舞台に上がった。男子もいるんだから、一人は男子にすればいいのに。その方が女形の所作が面白いのに、と毎回思う。

「神霊矢口渡」
虎之介は、お舟が惚れる義峰の役。その恋人のうてなは吉太郎。今までに観た吉太郎の女形の役としてはこれが一番大きい役かもしれない。まだ18だが台詞に不安定さがなく、おひきずりの裾の動きがとても綺麗だった。
主役のお舟役の壱太郎は、実年齢にぴったりの役で、美しい若い娘をうっとりと観た。ふんっ、と首を振るところが良くて、玉手の役も観たいものだと思った。
最後は人形振りになり、その前に黒衣が出てきて「トーザイ」と言って人形振りがあることを告げる。人形振りにしては操られ感が物足りなかった。
綺麗なお舟に感情移入して観ていたのに踊りが入るとそこで気持ちがぶった切られる感じで、残念だった。

三谷かぶき 「風雲児たち」 初日2019/06/03 23:26

2019年6月1日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階4列21番

「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」

花道後方から「ほら、始まるよ」という声がして、誰か出てきた。スーツ姿の松也。船の歴史を説明する、と言って櫓やオールから帆の説明に至る。そして、1本しか帆がない船ができたのはなぜかと言い、家康の名前を出す。歌ったり踊ったり手拍子をとったりで観客を一体にさせた。「質問のある人?」と訊くと誰かが「誰ですか?」と訊き、「自分も自分が誰なのか知りたい」みたいな答えをしていた。松也は良かったが、獅童に似合う役だなとちょっと思った。

本編が始まると、乗組員たちが難破した船の上にいる。

嵐の中、船頭の光大夫(幸四郎)が1本しかないマストを切ることを決断したので、船が難破した。

きたない恰好の猿之助が滔々としゃべりだす。猿之助は皮肉っぽい性格。
愛之助はふてぶてしい雰囲気の男。みんなで着物を出し合って新しい帆を作ろうとしているのに自分だけは寒がりだからと半纏を着たままでいる。野菜が少なくなり、沢庵を大事に使わないと、と炊事係の種之助が言っているときにポリポリと沢庵をかじり、半纏をまくると沢庵が4本下がっている。
染五郎は、船親父の三五郎(白鸚)の息子役で、細くて若者らしくてチャーミング。三五郎に、役立たずと叱られる。鶴松は同じ年齢だがすごくできる役。
宗之介は、死にそうな松之助を看病している。「母が医者の娘だっただけです」、と宗之介が幸四郎に言うのが可笑しい。
男女蔵は頭がいかれている。松之助は顔が大きい。
千次郎は、踊ってみんなを楽しませるという、いい役をもらっている。弘太郎はせっかく踊りもうまいのにキャラが立ってなくてもったいない。
弥十郎は最長老。

第二場、船はアムチトカ島へ流れつく。
愛之助は原住民をまねて海鳥の卵を水につけ、浮くものとそうでないものを区別して、中が鳥の形になっているものと卵のままなのをより分けている。中の一つを光大夫に渡す。
猿之助にも一つ渡すが、猿之助のは中から鳥の形が出てきた。それを所作だけで示す猿之助。それでは、と光大夫が自分の分を渡すが、その中からも鳥が出てきて猿之助は渋い顔。猿之助は、みんなを元気にするために笑える話の、所作まじりの台詞が見事で、一番の見せ場だった。それ以外でも、雪の上を歩いて行く姿がうまいとか、終始、すごくうまい印象を受けた。

役立たずだった染五郎はロシア語を覚えて通訳をするようになる。他のみんなにロシア語を教えるとき、幸四郎相手にテキストを地面に叩きつけて「やる気ないならやめちまえ!」と叫ぶのが歌舞伎の稽古で自分がやられていることの仕返しのようで面白い。

第二幕の一場では、船はカムチャッカに流れ着く。
光大夫は役人から食料として牛の頭をもらう。炊事係の種之助が料理して、こわごわ順番に食べる。弘太郎はあくまでも食べるのを拒み、氷の割れ目に落ちて死ぬ。種之助は自分はろくに食べずに皆の食べ物を用意していたので、弱って死ぬ。

その後、オホーツク、ヤクーツクに行く。馬車の馬は西洋風だが、人が中に入っている歌舞伎の馬。しかし、ああいう風に馬二頭が走っているのを真正面から見ることは歌舞伎ではないかもしれない。
ヤクーツクでは高麗蔵演じるロシア娘と染五郎との年齢差ラブシーンが見もの。高麗蔵が楽しんでいる。その妹役の宗之助、父役の千次郎と3人でロシア語でしゃべる。

イルクーツクには犬橇で行く。11頭のハスキー犬役が舞台後方から出てくると客席が沸いた。犬たちはじゃれあったりして無秩序に動いていたが、男女蔵がリーダー犬に命令して座らせる。リーダー犬は頭をなでてもらって喜ぶ。個人的にはこの橇犬たちのシーンがハイライトだった。犬たちは橇を引いて花道を引っ込む。イルクーツクに着くまでには何頭もの犬がばてて倒れた。
新悟は、愛之助のガールフレンドのロシア娘の役で、面白かった。長身が役に合う。台詞は日本の諺の連続。
八嶋智人が植物学者ラックスマンの役で出る。光大夫はラックスマンに連れられてペテルブルグへ行く。

ペテルブルグの宮殿の場は貴族の男女がたくさん出てベルばらのようだった。竹三郎と寿猿が見もの。
光大夫がここで会ったのがエカテリーナ(猿之助)とポチョムキン(白鸚)。エカテリーナはその造形と、ポチョムキンに手と目配せで合図する表情が見ものだった。

日本に帰国できることになったが、猿之助と愛之助は事情で日本に帰れず、二人で手を握り合って「帰りてえよう」と嘆く。

終わった後、カーテンコールがあった。

坂東玉三郎 世界のうた2019/05/28 23:14

2019年5月28日 日生劇場 午後2時開演 GC階B列39番

幕が開くと紫の布が左右を覆っていて、真ん中の玉三郎が右側の布に巻かれて立っていた。そして、幕は左右に動いて、玉三郎の全身が現れる。始めから玉三郎の魔法にかかって気持ちが高揚した。
ここは良い席。玉三郎の全身が目に入って、世界に唯二人のような気持ちにさせてくれる。「はるかなはるかな見知らぬ国へ」と歌いだした。
「つめたい部屋の世界地図」と「少年時代」。玉三郎の声に愛撫されているようだ。玉三郎の歌のコンサートが始まった頃はよく声が出ていて、名曲を表現力豊かに歌えている、と思ったが、きょうの冒頭の2曲を聴いて、玉三郎に余裕が出てきて、玉三郎の踊りでいつも感じるような、観客の心をくすぐる芸術性が出てきたと思った。

傳左衛門が、どこかの地方公演のときに玉三郎といっしょにカラオケに行って、玉三郎は「少年時代」を歌った、と言っていたから、聞きたいと思っていた。

2曲の後、玉三郎が少ししゃべった。「かくもにぎにぎしく」と歌舞伎の口上のようなことを言ったのが面白かった。2日続くコンサートの最初なので緊張しているらしい。緊張している、と終始口にしていた。

続けて「5月の別れ」「誰もいない海」「夜明けのうた」。
岩谷時子の還暦パーティのとき玉三郎が「夜明けのうた」を歌うことになって、岸洋子は「あたしの心の」と歌ってたけど、「ぼくの心の、歌ってもいい?」と聞いたら、岩谷時子は、「元々の歌詞は、ぼくの、だった」と言ったそうだ。そうなんだろう。私が最初のこの歌を聴いたのはテレビドラマで長谷川明男の歌だったから、「ぼくの」と歌っていた。

「夜明けのうた」の最後に下手に引っ込んだ。次は「18歳の彼」だから女になって出てくるのかと思ったが、キラキラする生地の服になった。
「18歳の彼」はNHKホールのコンサートのときにも聴いた。

「そして今は」はジルベール・ベコーがブリジット・バルトーと別れたときの歌だそうだ。これと「パダムパダム」はNHKホールのときは別の人が歌った。

「待ちましょう」は私もたぶん淡谷のり子の歌で聞いた。戦争へ行った恋人を待つ歌だそうだ。

前半の最後は「人生は歌だけ」と「水に流して」。「水に流して」は前のコンサートでも聴いた。

後半の最初は「虹の彼方に」。「スマイル」の後、「マック・ザ・ナイフ」。
「マック・ザ・ナイフ」と言えば映画「悪の教典」で使われて歌詞の意味に感銘を受けた。玉三郎は、ブレヒト、クルト・ヴァイルに言及し、訳詞はぶっとんでるのでいいんじゃないかと思ってそうしたようなことを言った。バラードが多くなるので少し変わったものを、と思ってこの曲を入れたそうだ。歌いだすと、客席から手拍子が沸いた。細身のスーツで動きながらの歌はなかなか良かった。

「センドインザクラウン」は歌もミュージカルも知らなかった。
「ある恋の物語」は曲をよく知っている。フィギュアスケートとかによく使われているからだろうか。ザピーナッツが「わたしの恋のお話」と歌った、と玉三郎は言ったが、私にははっきりした記憶がない。作曲家の弟の奥さんが亡くなったときに作った曲、というのが萌えだった。名曲なので歌はない方が良い。どうせなら踊ってほしかった。

「サムウェア」はウエストサイドストーリーの中の歌だそうだが、印象に残ってない。「星に願いを」は昔のテレビのディズニーアワーのテーマソングだそうだ。おとぎの国、冒険の国、あと二つ何かの国があるウォルトディズニーの番組は私も大好きだった。

「すべての山に登れ」は最初のコンサートでも歌ってくれて、嬉しかった曲だ。
最後は「アンフォゲッタブル」。

アンコールは前と同じ「ラストワルツ」だった。引っ込んだ後、もう一度出てきてお辞儀をした。

世界を歌う、というタイトルだが、シャンソンやミュージカルよりもニューミュージックの方がうまいのが同世代の日本人らしくて好き。

5月文楽公演「妹背山婦女庭訓」第二部2019/05/26 01:25

2019年5月25日 国立劇場小劇場 午後3時45分開演 15列21番

5時間座っていて、さすがにお尻が痛くなった。文楽は長丁場だ。
「杉酒屋の段」以外は歌舞伎で観たことがある。いつもながら、字幕が出るからわかりやすい。
最初の「妹山背山の段」は歌舞伎の「吉野川」。これも「妹背山婦女庭訓」の一部だったのだ。雛鳥が入鹿に見初められた、という話が出てきて、筋がつながる。
真ん中の川で下手上手が分かれているが、大夫と三味線も下手上手に分かれる。大夫と三味線の一人一人の名を舞台の黒衣が言って、そのたびに客先が拍手するのも歌舞伎と違うところ。
すごい話だから、最後の拍手も大きかった。

25分休みのときは、出遅れて中の席がとれなかったので外に出てベンチに座って食事をした。気候が良いときはこれでいい。

休みの後は、「杉酒屋の段」。求馬と橘姫が会っていたり、お三輪が出てきて、苧環も出てきたりして、「道行恋苧環」に続く。

求馬、橘姫、お三輪の踊りは綺麗だった。文楽で踊り、と聞いたときは想像し難かったが、人形には肉体がない分、肉体の限界、束縛もなく自由に美を追求できるのかもしれない。

次の段は鱶七。歌舞伎と同じ格好をしている。

最後の「金殿の段」には豆腐買いの女が出る。お三輪と官女たちが御殿の廊下を歩くとき、歌舞伎ではすれ違っていくが、文楽では人形同士がいちいちぶつかるのが面白い。

官女たちがお三輪をからかう場面は、一番感動した。身近にありそうな話なのでどちらの気持ちも想像できる。歌舞伎で何度か見たが、文楽は人形が演じるから役者のキャラを通さずに直接に話が心に伝わってくる。

鱶七が再登場してお三輪の最期となるが、この辺りの話は忘れていたので良い復習になった。